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バビロンのsugar708のレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
3.8
これは喜劇か、混沌か、狂気か。

あくまで個人的な印象なのですが、非常に私的な映画だなと思いました。サイレント映画からトーキーへの転換期となった1920年代、1人の俳優の栄枯盛衰、華やかでありながら狂気に満ちたハリウッド、時代性やエンターテインメントの裏側を描きながら見え隠れするのは監督であるデイミアン•チャゼルのフィルターを通した映画の形というか、世界観が色濃く表現されているような気がしました。

セッションのような音楽性の高さや狂気に潜む哀愁、ラ•ラ•ランドでも描かれた夢抱く男女のラブロマンス、どこか滑稽でドツボにハマっていってしまう喜劇とも悲劇ともいえる展開、どれも王道といえば王道なのですが彼の好きなものが全て詰まったような作品のように思えます。

エンタメ性がありながらも、パーソナルな要素も強い、だからこそ好みが分かれるのかなと。

映画の転換期というのは細かく言えば沢山あるかと思うのですが、大きく分ければ本作で描かれたサイレントからトーキー、モノクロからカラー、CGやVFXの導入等があるかと思います。

時代の流れについていけないものは一定数いる。そして、変化に対応できないものは無情にも置き去りにされる。

そういう意味で、ここ数年の間に映画業界で大きな変化がありました。コロナ禍による巣ごもりとNetflixなどの動画配信サブスクの台頭による映画の視聴環境の変化です。

「映画を映画館で観る必要性を感じない」

周りでそんな言葉を耳にする機会も多くなりました。リアル回帰ということで昨年の興行収入は好調だったり、映画館での体験というものは何物にも変えられないものがあるのでなくなるということはないと思いますが、この先VR技術などの進化により数十年後の映画がどうなっているのかは誰にもわからない。

ラストシーンを見たとき、映画讃歌ともいえる本作や全ての映画を我が子や孫と一緒に観れる日が訪れて欲しい、そう思える作品でした。

ジャックの姿は全ての人が共感できる部分があり、それは人間に限らず企業の成長サイクルにも共通しています。自身の時代が終わったときに幕引きをどうするか、それは永遠のテーマなのかもしれません。

時に色がなく地味だと揶揄される近年のハリウッド映画の中で、バビロンの冒頭はこの上なく低俗でカオス、狂気そのものですが、豪華絢爛でインパクトがあり、どこか西洋絵画のような美しさがありました。
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