KouheiNakamura

ミラーズ・クロッシングのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

ミラーズ・クロッシング(1990年製作の映画)
4.2
ハゲとケダモノとハートレスマン。


映画が始まると、八百長への不満をぶちまけるハゲで小太りの中年男。男は言う、「人間がケダモノと違うのは倫理があるからだ!」。話を聞いたイタリアン・マフィアのボスは男の要求をはねのけ、ハゲ男とその側近は去る。ボスは自分の後ろに控える男に意見を求める。「…どう思う?」。声をかけられた男こそ、この映画の主人公トムである。トムはここから様々な問題に向きあうことになるのだが…。

「ブラッド・シンプル」、「赤ちゃん泥棒」で成功を収めていたコーエン兄弟がスタジオから当たる映画を作れ!と言われて手がけたギャング映画。しかし、蓋を開けて見ると興行成績は惨敗。評価も軒並み悪かった。コーエン兄弟は今作の脚本執筆に相当苦労し、この時の経験を元に「バートン・フィンク」を作っている。
今作の主人公トム役のガブリエル・バーンはインタビューでこの作品に対してこう言っている。「批評家たちにこの作品が不評なのは、この映画がいわゆるギャング映画とは違っているからだ。批評家は一言で言い表わせる映画を好む。この映画の魅力は一言では言い表わせない。」。

ガブリエル・バーンの言う通り、この映画はいわゆるギャング映画を期待すると肩透かしを食らうと思う。派手な銃撃戦はほとんどなく(厳密に言うと少しあるが主人公は無関係)、ギャング映画らしいこれ見よがしな暴力描写も皆無。何より主人公トムがイマイチ格好良く決めきらない。
しかし、この映画最大の魅力はそのジャンル分け不能な点にある。一瞬コメディかと思うようなシュールな場面あり、ハードボイルドな雰囲気もあり、ギョッとする銃撃戦もあり、ロマンス要素もちょっぴりある。基本的に巻き込まれる側の主人公トムの決めきらない人間臭さも味があって良い。

撮影や音楽も的確で素晴らしく、決して完全ではない良さに溢れた映画だといえる。ふとした時に見返したくなる、独特な味わいの逸品。オススメです。
KouheiNakamura

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