KouheiNakamura

メアリと魔女の花のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

メアリと魔女の花(2017年製作の映画)
1.5
この空に、虹はかからない。


スタジオジブリなき後、その精神を受け継ぐ覚悟のスタジオポノック第一回作品。監督はアリエッテイ、マーニーの米林宏昌。7年に一度しか咲かない魔法の花、夜間飛行。平凡な少女メアリはある日偶然森の中で夜間飛行を見つけてから、魔法学校のゴタゴタに巻き込まれていく…。
杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、大竹しのぶ、佐藤二朗ら豪華キャストが声を担当したアニメーション作品。

アニメーションとは、魔法である。いや正確に言うと膨大な数の静止画が連なり、作り手の意思が宿ってはじめて魔法となり得る。日本有数のアニメーションスタジオであるスタジオジブリの三巨頭高畑勲・宮崎駿・鈴木敏夫に感謝の言葉を捧げている今作に、はたしてアニメーションの魔法はかかっていたのか?

残念ながら、個人的には久しぶりに全くといっていいほど心を揺さぶられない作品だった。驚いたことに米林監督の前作思い出のマーニー(個人的にはあまり好きな作品ではない)以上に魅力を感じなかった。ジブリ解散後、初の長編。監督含め、スタッフの気合いは並々ならぬものがあったはず。しかし、完成した作品からは微塵もそんな情念が感じられないなんとも無味乾燥な作品になってしまったように思う。何故なのか?

まずは冒頭、魔女が夜間飛行を持ち出し謎の敵に追われる場面。この冒頭はスピード感も絵の迫力もあり、中々期待させる。問題はその後。主人公メアリの退屈な日常が描かれていくのだが…この日常場面が本当に単なる「退屈な日常」以外の意味を感じない。メアリを取り巻く人々の描写が単なる説明の域を出ない。全くワクワクしない。そういえば主人公メアリの第一声は「退屈…。」なのだが、部屋のベッドで退屈そうな表情をしてうだうだしているメアリの姿だけで退屈なのは十分観客に伝わっている。米林監督は前作マーニーでもそうだったが、人物の心情をいちいち口に出させないと気が済まないのか。例えば千と千尋で、車の後部座席で寝転がる千尋は「退屈…。」だの「不安だなあ」なんてことを口にしたか?風立ちぬの堀越二郎は物語中盤、その不安な心情を一言でも口に出したか?言わなくても伝わることを口に出させてしまうと、本来絵だけで雄弁に伝わる場面の意味が矮小化・単一化されてしまう。残念ながら今作は一事が万事この調子だ。おどけたキャラはおどけるだけ、ギャグなのかわからないメアリのドジ連発もその後の展開に何も生きてこない。とにかく全編、悲しいほどに盛り上がらない。気がつけば人間界を揺るがす大事件も勝手に終わっている。エンドロール後には登場人物の誰の顔も頭に浮かんでこない。最初から最後まで、無だ。

もちろん一流アニメーターの手がける絵は美しい。だが、それだけだ。美術館で特に好きでもない名画を延々と見せられているような感覚。それがこの映画の全てだ。

とはいえ、スタジオポノックはまだ出来たばかり。次こそは米林監督の執念を感じる映画が見られることを願うばかりだ。
おすすめはしません。
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