KouheiNakamura

LOGAN ローガンのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

LOGAN ローガン(2017年製作の映画)
4.2
谷から銃は消えた。


映画が始まると、うらぶれたスーツ姿の男がチンピラ達と殴り合いを始める。チンピラ達が彼の車を盗もうとしていたのだ。数の暴力に圧倒され、防戦一方の男。ついに男が地面に倒れ伏したその瞬間、タイトルが出る。LOGAN。そう、この男こそかつて幾度も世界の危機を救ったミュータント。ウルヴァリンことローガンだった…。

2000年に始動したX-MENシリーズ最大の功労者であるヒュー・ジャックマンとパトリック・スチュワート。ウルヴァリンとチャールズ・エグゼビア。この二人がついにX-MENシリーズを卒業するという。その最後の作品がこのLOGANだ。
監督は「ウルヴァリン SAMURAI」、「3時10分、決断のとき」のジェームズ・マンゴールドが務める。17年続いたウルヴァリンの道行きの最後を、骨太な演出で見せ切っている。共演に新鋭ダフネ・キーン、ボイド・ホルブックら。

1992年に、西部劇は終わった。クリント・イーストウッドという偉大な老監督が撮りあげた大傑作「許されざる者」によって。映画はかつての凄腕ガンマンがすっかり老いた身体で最後の死闘に赴くというもの。イーストウッドは自身の出世作から西部劇のヒーローを数多く演じてきた。クールでニヒル、悪を成敗する正義のガンマン。そんな彼が「許されざる者」で演じたのは、正義のガンマンの成れの果てだった。かつて自らが振るった暴力の影に怯え、死の恐怖に震える一人の老人。その姿は西部劇というジャンルの終焉を観客に実感させるのに十分すぎるほど衝撃的だった。

X-MENというアメコミ映画の先駆者的なシリーズの最新作であるこの「LOGAN」は、奇しくもイーストウッドの「許されざる者」と呼応する精神を持った映画になった。つまり、アメコミ映画の終焉を感じさせる作品だということだ。
かつて力の限り暴れ回ったウルヴァリンの姿は、今作ではほとんど見られない。常に足を引きずり、チンピラ達を倒すのにも必死で治癒能力も衰えたウルヴァリン。アダマンチウム製の爪も今では鈍く光り、X-MENの仲間達もほとんど失った。生きる希望を失い、死ぬことを望む一人の男。それが今作のウルヴァリンだ。
そんな彼を変えていくのは、彼と同じ能力を持つ少女ローラ。野獣のような彼女を成り行きで守るうちに、ローガンはやがてかつての希望を取り戻していく…。

「3時10分、決断のとき」という名作西部劇のリメイクを手がけたジェームズ・マンゴールド監督は今作でも西部劇愛に満ちた画作りでこのハードなストーリーを描いている。そこにはアメコミ映画らしいケレン味や爽快感はなく、ゴア描写に満ちたアクションシーンは暴力の残酷さ・罪深さを観客に容赦なく突きつける。
こうして出来上がったLOGANは、アメコミ映画としては極めて異色な作品となった。ひたすらにリアルで重苦しいストーリー、ザラついた画面、分かりやすいカタルシスを与えない構成…。しかしそこまで突き詰めないと、今大人気のアメコミ映画を殺すことは出来なかったのかもしれない。暴力にまみれ生きてきたウルヴァリンの最後の闘いの末に、はたして何が残ったのか?
アメコミ映画は死んだ。しかし再び蘇らないと誰が言えるのか?時代に爪痕を残す、力作だと思う。オススメです。
KouheiNakamura

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