KouheiNakamura

ハクソー・リッジのKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

ハクソー・リッジ(2016年製作の映画)
4.2
あと一人、もう一人。


アメリカのどこにでもあるような庭付きの家。そこで喧嘩をする幼い兄弟。母は心配するが、父は「ほっておけ。」と素知らぬ顔。しかし喧嘩はヒートアップし、弟がレンガで兄を殴打してしまう。頭から血を流す兄を見て、自らの行いを悔いる弟。家の壁に掛けてあったキリストの絵を見ながら、彼は誓う。二度と、人は傷つけないと。彼の名前はデズモンド・ドス。米軍史上ただ一人、武器を持たずに戦場に行った男だった…。


一時期はお騒がせ俳優としてそのキャリアを危ぶまれたメル・ギブソン10年ぶりの監督作品。自らの信念を貫いた主人公デズモンド役は若手実力派アンドリュー・ガーフィールド。ヒューゴ・ウィービング、ヴィンス・ヴォーン、サム・ワーシントンらが脇を固める。

映画の前半は主人公デズモンドが如何にして育ち、その信念を形成することになったか?が中心に描かれていく。メル・ギブソンの的確な演出によって、偽善ではないデズモンドの行動とその人物像がテンポ良く描かれる。デズモンドの配属された部隊の兵士たちもそれぞれに個性的で魅力的。真っ裸兵士ハリウッドは特に最高で、出てくるたびに笑ってしまった。
後半の主な舞台はハクソーリッジこと沖縄・前田高地。ノコギリ崖と呼ばれた断崖絶壁の戦場で、デズモンドはその信念を試される。この前田高地での戦闘シーンは壮絶の一語。至るところで血や肉片が飛び散り、容赦なく命が奪われていく戦場の恐ろしさが十全に描かれていく。その恐ろしさが描かれれば描かれるほど、武器を持たずに負傷者を救出し続けるデズモンドの狂気にも似た崇高さが際立つ。ただ、目の前の人を助けたい。その一心で、デズモンドは前田高地を駆けた。

戦争映画だからとか宗教色が強いからという理由で敬遠するのはもったいない、メル・ギブソン入魂の一作。おすすめです。
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