シノミー

52ヘルツのクジラたちのシノミーのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.7
誰にも届くことのない声。

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ある出来事から、大分の港町で1人で暮らしている貴瑚(#杉咲花)。
ある日、海辺で髪の長く乱れた少年と出会う。
母親から虐待を受けていたその少年は、母親からムシと呼ばれており、その事実を知った貴瑚は彼を保護することにする。
貴瑚はかつて自分も誰かに救われた経験があったことを思い出す。
貴瑚の壮絶な3年間を描いた物語。

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重く苦しく、それ故に優しさに触れた時に涙を流してしまうような現実を突きつけられた。

人の抱える苦しみや葛藤に僕らはいつも鈍感で、無関心だ。少しでも寄り添ってあげられたら、何かが変わっていたら、そう思わざるを得ない。

だけどそれは決して簡単なことではなくて、抱える人の心次第であることも多い。
52Hzの声で鳴くクジラは誰にもその声を認知されることがなく、孤独の世界を生きている。他人に打ち明けることなどできない。そんな勇気も関係もなく、離れていく怖さしかなかった。

決して誰も不幸になりたかったわけではなくて、結果的に自分が苦しい状況まで追い込まれてしまっていたようなケースが多いと思った。

エピソードの一つ一つがかなり重たくて、しんどくなった。多少演出が過剰なところはあったけど、題材が題材なだけあって、その分表現にかなり繊細さが求められていた。

杉咲花は「市子」の時もそうだったけど、過去のしがらみに囚われた演技が本当にうまい。同じ世代の女優の中でも頭ひとつ抜けていると思う。
視聴者の中にも当事者がいるということを常に意識して演技に臨んでいるのだそうだ。自分たちが想像もし得ない境遇の人がこの世にいて、そこに寄り添いたいと思う人もいるはずで、そんな人に少しでも近づきたいと思う。

志尊淳はあまり過去作を観ていなかったけど、めっちゃハマっていた。儚くて優しいあの声が頭に残っている。壊れてしまった時の声も凄く印象に残っている。

魂のつがいを探しにいく長い旅路、ぜひご覧ください。
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