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ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅のshxtpieのレビュー・感想・評価

3.5
よすぎて、泣いてしまいました。

ロイ・ハーグローヴのことは、レコードを通してしか知らなかった。日本でのライブも見たことがない。けれども、このドキュメンタリーを見たら、彼の人間性、人となり、生前に抱えていた問題など、何から何までがわかる。しかも彼がもう亡くなっているという結末はわかっているだけに、余計にかなしくて泣いてしまった。

ロイと親しい監督が彼の最期のツアーを記録して(もちろんロイが亡くなるとは、その時は誰も思っていない)、その時のフッテージをもとにしながら、ロイの仲間たちやジャズジャイアンツ、他領域の音楽家たちへのインタビューを(ロイの没後に)おこない、それらを再構成したのがこの映画だ。亡くなる前のロイの姿、かしこまったインタビューというよりも親しげな友人との会話のようなもの、そして演奏などが収められていて、それだけでも貴重なのだけれど、さらにロイを外側から見つめる視線があるがゆえに、彼の偉大さと個性を客観的に浮かび上がらせている。近いか遠いかで言ったら、かなり近い。でも、ちゃんと距離を置いている。

天才的な技術、目立ちすぎる個性的なファッション(無類のスニーカー好き)、ヒップホップやR&Bの領域と分け隔てなくコラボレーションする越境性(ディアンジェロ、ヤシーン・ベイ、エリカ・バドゥ、そしてRH・ファクター)、オープンマインドな姿勢、センス・オブ・ユーモア、スピリチュアリティ、グルーヴと詩性を重視する態度、深夜のジャムセッションで若手たちを鍛える「教育者」としての姿……。「ロイ・ハーグローヴとはどんな音楽家だったのか?」という問いに答えるだけでなく、彼がどんな人間だったのか、音楽の世界や他者に何をもたらしたのかが、映像によって編みあげられていく。ヒップホップなどに対するロイの姿勢とウィントン・マルサリスの態度を比較していた場面は、なかなか皮肉っぽくて面白かった。

ただ、具体的に、クロノロジカルに、丁寧に、丹念にロイのキャリアを描くことはしない。たとえば、スピリチュアリティのような、もっと抽象的なテーマごとに、映画は大雑把に章分けされているように見える。

こんなつくりになったのは、監督の意志が貫徹されているのと同時に、生前のロイとの約束やロイの遺志が、もちろん関係しているのだろう。一方で、映画の中でかなりの時間を割いて語られている、元マネージャーのラリー・クローシアとのトラブルが作用したことも大きいだろう。ロイのマネージャーは、業界内で評判のひじょうに悪い、かなり問題のある人物だった。映画の最後で版権の問題についてかなり衝撃的な事実が明かされて、そういうことだったのかとめちゃくちゃ驚いた(アメリカらしいといえば、そうなのかもしれない)。簡単に言えば、ラリーは映画の撮影や制作を妨害しており、それはロイのレガシーに対しても、何もポジティブな結果を生んでいない。あまりにもひどいのである。

マネージャーの問題に関連して、ヤシーン・ベイが語った宗教的な話し、フランク・レイシーがあらわにした怒りは痛烈だった。特に、フランクが「黒人は綿摘みをするだけじゃないんだ!」と怒鳴ったシーンは重く、忘れがたい。

とはいえ、「異星からやってきた」と時に形容されるロイの音楽と人生は、ここに凝縮されている。ラリーの妨害を超えて、この映画こそロイの遺産を伝えるものだと言いたい。
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