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サファリのshxtpieのレビュー・感想・評価

サファリ(2016年製作の映画)
3.5
こちらもなつかしい。イメージフォーラムでかかっていた。

『サファリ』は、どのホラー映画、どのスプラッター映画よりも、断然おそろしい。なぜなら、これが現実そのものだからだ。ラストのキリンの解体のシーンには、「うわっ」と思わず声を漏らしてしまう。「見る地獄」、まさにそのものである。

冒頭の数カットからして、思いっきりウルリヒ・ザイドルの映画の世界が展開されるので、笑ってしまう。いや、まったく笑えない……。

『サファリ』は、トロフィハンティングについてのドキュメンタリー映画だ。しかし、ザイドルは、エデュケーショナルな姿勢は放棄している。「先入観を持たず、中立的な立場で」とザイドルは語っているが、映画にはトロフィハンティングの歴史的な説明や解説もなければ、専門家へのインタビューもない。ザイドルは、ナミビアのハンティングロッジに赴き、黙して、淡々と、独特のアングルから、カメラを冷徹にただ回して、記録された映像を編集している。

その静けさの中に、裕福な白人たちの傲慢な植民地主義、資本主義、そして人間たちの動物に対する身勝手な支配と愚劣で無意味な殺生が、そのままのかたちで、ごろりと投げだされている。単なる「趣味」や「余暇」、「たのしみ」のために、白人たちは動物たちを嬉々として撃ち殺し、笑顔を見せ、獲物を仕留めたらよろこんで抱きあっている。そして、ソファでリラックスして、自らの哲学を滔々と語る。白人と黒人、富める者と貧しき者、人間と動物。暴力的な関係性が、生のままで映っている。それが、いかにも不気味で、寒々しく、おそろしい。

ロッジで働く黒人たちは、置き物として映されるだけで、会話に字幕をつけることもせず、インタビューもしない。ザイドルの、「西側」からの視点であからさまに撮られている点が、どうにも気に食わない。しかし、これは、あきらかにねらったものだ。なぜなら、トロフィハンティングをおこなう白人たちは、いやに饒舌に、べらべらといらぬことを語っているから。黒人たちは、寡黙なのではなくて、「語ることができない」。サバルタンのように。しかし、ザイドルの西側、白人側の姿勢を、あまりにも強く感じてしまって、反吐が出る。怖気が立つ。そして、ザイドルは、観客にあえて吐き気を催させようとしている。それは、アイロニーという生易しいものでもなければ、無力なシニシズムでもない。ザイドルは、問いかけも告発もしない。そこにあるのは、ただただひどく強い、薄ら寒い悪意と憎悪である。
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