umisodachi

Hereのumisodachiのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
4.8


ベルギーの新進気鋭の映画監督バス・ドゥボスの最新作。

ブリュッセルで働くベルギー人のシュテファンは、故郷の友人のために本帰国すべきか悩んでいた。とりあえず帰省のために冷蔵庫の中のものでスープを作り、友人たちに配ることに。そんな中、彼は以前お店で見かけた中国系ベルギー人の女性と再会。苔の研究者である彼女と行動を共にすることにするのだが……。

とても静かな作品。私はヨーロッパ滞在中にブリュッセルも訪れたが、私がいたようなにぎやかなエリアは一切出てこない。移民たちがひっそりと懸命に暮らしているブリュッセルのリアル。バスの中で休暇前の挨拶をし合って同僚たちが別れるシーンから、この映画ががただものではないことがわかる。スクリーンの中の主人公はシュテファンだが、この映画にとっての主役はスクリーンに映るもの「すべて」なのだ。この監督は、五感を使って捉えられる「すべて」を映画にしようとしていて、実際にそれができる力量を持っている。

世界中から人間が来て、行き交い、そして離れていくブリュッセル。女性と森に入って行ったシュテファンが出会うのは、太古の昔から地球上に現れては朽ちていった植物の世界。都市も森も何ら変わらず、命と生活が生まれては消えていく。

しかし、生命と生命が交差するとき、どうしようもなく美しい瞬間が訪れる。スープを配り歩くシュテファンが辿る軌跡に、彼は確かに存在していて、それは交差した人間の中に刻まれる。たとえ二度と会えなくても。

ラストのシュシュの表情がとても良かった。今まで見た中で最高の「あっ……」でした。

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