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テイラー・スウィフト:THE ERAS TOURのshxtpieのレビュー・感想・評価

4.5
泣いた。テイラー、神でした。というのは、半分冗談だけれど、半分本気。3面のバックスクリーンに映った時の神々しさ、三位一体感(「三位一体」といっても、全部テイラー)は、ちょっとすごくて、こわいほどだった。

やばい、もう終わるから見にいっておかなきゃ、と仕事の前に気づき、渋谷での仕事終わりに思いたってチケットをパッと取った。なんと、TOHOシネマズ新宿はソールドアウト。なので、グランドシネマサンシャイン池袋へ。あんまりよく見てなかったのだけれど、声だしOKの上映だったことに、あとから気づく。

近くのベローチェで2時間仕事をしてから、映画館のスクリーン5までのぼっていくと、サイネージに映されたポスターの前で女の子たちが行列をなし、写真を撮る順番を待っている。えっ。映画館では初めて見る光景だ。私はその様子だけを見て済ましてしまったので、自分の写真を撮れなかった。

劇場内は、上映前からかなりお祭りモード。普通の映画の上映前より、オーディエンスがみんな興奮していて、なんだかやたらとざわざわしている。売り切れてはいないが、席は8割ほど埋まっていただろうか。観客の99.9%は、20代前半くらいのかなり若い女性たち。私(テイラーと同じ1989年生まれ)のようなミレニアル世代の男はほとんどおらず、私より年上でおとなしそうなおじさんたちがなぜかぽつぽつといる(デビュー当時から推していたベテランたちだろうか。すごい臭いおじさんが一人いた。ぽつぽつといたおじさんたちの中には、上映中、じっと座って鑑賞している人も多かった)。熱心なスウィフティーズは、サイリウムを持参している。本気と書いてマジだ。そう、この上映で観客がすることは、「映画の鑑賞」ではなくて、「ライブへの参加」なのである。

オーディエンスの大半が興味を持っていない、どうでもいい予告編(だって、みんなテイラーを見にきているのだから)が終わって映画が始まると、ライブの導入からいきなり大歓声、拍手の嵐で、「キャーッ!!!!!」と悲鳴をあげて席から立ち上がるスウィフティーズ。それほどもったいぶらずに、奈落からせりによって早々に舞台(画面)上に現れるテイラー。私の左隣に座っていた2人組のうち、特に歌いまくって熱い反応を上映中に示していたほうの1人は、「かわいい〜!!」と繰り返し大絶叫。右隣の大人しそうな女の子は啜り泣き。

“Miss Americana & The Heartbreak”でライブが始まるやいなや、観客たちはどんどん立ち上がりはじめて、画面が見えなくなってしまったので、私もすかさず立ち上がった。みんな、始めからシンガロング、大合唱。リリックが字幕で映されるので(全編英語だが、それがよかったし助かった。ちなみに、MCも英語字幕つき)、私も一緒に歌う。

2曲目の“Cruel Summer”(最近、リバイバルヒット中)で、熱狂は早くも頂点に。テイラーとともに歌い、手を叩いたり挙げたり、サイリウムを振って、目の前にいるテイラー(実際は画面の中にいるが、目の前にいるとしか思えない)に熱い感動と尊敬の眼差しを注ぐスウィフティーズ。す、すごい……。うわ〜! スウィフティーズの熱気に押されて、自分は今、「映画館で映画を見る」という体験とはまったく異質のものやことを経験しているんだ、とようやく気づいた。

すでに序盤で、私は、会場の熱気と強烈な空気感、ポジティビティ、明るさ、楽しさ、パワーにやられるとともに、画面に映しだされているテイラーのパフォーマンス、実際に会場にいるオーディエンスの盛り上がりぶり、そして歌そのもの、音楽そのものに打たれてしまい、涙ぐんでいた。アメリカでの上映が色々な意味でものすごいことになっているのはソーシャルメディアで見ていたけれど、日本でもこれほどとは。というか、日本にこれだけ力強いスウィフティーズがたくさんいたこと、そして彼女たち/彼らがテイラーに対する強い愛を抱えていたことを初めて認識して、そのことにかなり感動してしまった。

テイラーがSoFiスタジアムの大観衆に呼びかければ、劇場内の数百人のスウィフティーズもそれに反応して声を上げ、手を振る。曲のキメにはぴったり合わせて叫び、踊る。これがコンサートフィルムの上映であることを完全に忘れさせる、すさまじい熱気。ちなみに、私のうしろにはテイラーの歌完コピニキがいて、全編通して(曲中の語りのようなところを含めて)歌いきっていた。すごすぎる。

やっぱり、『Fearless』、『Red』、『1989』の曲は、おそろしいほどに盛り上がった。歓声とシンガロングでテイラーの歌が掻き消されるほどで、とんでもなかった。私も涙をこぼしながら、テイラーやスウィフティーズたちと“You Belong with Me”やLove Story”や“We Are Never Ever Getting Back Together”や“Blank Space”や“Shake It Off”を歌った。

セットリストの組みかたはかなりしっかりしていて、『evermore』と『folklore』のパートは観客の大半が席に座るチリンな時間なのだけれど、その次にくるのが『Reputation』と『1989』のパートなので、転換とともにみんな一気にぶち上がって立ち上がる、といったぐあい。緩急がつけられていて、ライブやコンサートとしての完成度が、当然ながらものすごく高いのだ。そういうわけで、感動したポイントや瞬間は数えきれないし、いちいち書いてなんかいられない。まあ、正直に言うと、ラスト、最新作の『Midnights』のパートは、ぜんぜん盛り上がっていなかった。あのアルバムの評価は、これからだんだんとされていくのだろう(私も、そんなに好きなアルバムではないものの)。

上映中は英語字幕がずっと出ているので、ああ、これはこういう歌だったのか、とテイラーの音楽に出会いなおすいいきっかけにもなった。“Enchanted“とか“betty”とかってこんなにいい曲だったんだ、“All Too Well”の10分バージョンはライブだとあっというまだな〜、といったふうに、テイラーの音楽をもっと深く理解できて、好きになれた。それだけでも、かけがえのない時間だった。

それにしても、超素人じみた感想だけれど、ライブやコンサートを支え、つくりあげているチームの結束力やプロフェッショナリズムがものすごい。ダンサーたち、バックコーラスを歌うシンガーたち、バンドメンバーたち、舞台には立たないが、衣装や装置やセットや演出を担っている人々、PAや照明や映像や現場を取り仕切るスタッフたち。彼女たちや彼らの努力、尽力が画面の上に滲んでいる。

当然ながら、マイケル・ジャクソンやビヨンセのようなセクシーさと力強さで押す堂々としたパフォーマンスから、アコースティックギターやピアノを弾き語ることでルーツを際立たせる演奏まで、パフォーマーとしての胆力と底力、ミュージシャンシップで魅せるテイラーの姿には圧倒された。テイラーは他のパフォーマーたちを蔑ろにすることはもちろんないのだけれど、3時間のコンサートで彼女はたった一人の圧倒的な主役、主人公だった。

そんなわけで、テイラー自身やその存在感はあまりにも神的なのだけれど、「テイラー、神でした」と冒頭に書いたことは、けっこう嘘ではある。17年間のキャリアを総括して歌いとおすこのライブコンサート映画を浴びて思ったのは、彼女はやはり“girl next door”(この言葉に色々と問題があるのはわかっているものの)なアーティストなのだということ。テイラーは、神ではない。スウィフティーズも、彼女を神格化してない。テイラーは、私たちの隣人であり、友人であり、クラスメイトであり、親戚であり、家族であり、恋人であり、元恋人であり……。優等生っぽくはある「ミス・アメリカーナ」だけれど、つまり、彼女は、生々しい生と近しさを強く感じさせてくれる人間なのだ。

とにかく、単なる映画鑑賞にはまったく収まらない、人生で今までに経験したことがない強烈な体験だった。来年の来日公演がまじで楽しみだ。BESTIAとサラウンドのサウンドもよかったし。コロナ禍からの反動もあって、ライブやコンサートの興行が新時代に突入しているなか、後年、転換点としてメルクマールに刻まれそうなThe Eras Tourの上演と映画の上映を、この身をもって感じることができて、本当によかった。テイラー、ありがとう。
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