とびきり素晴らしい作品だった。いつか歳をもっと重ねていって、日々の生活に疲弊した中でこんな小さな冒険に身を委ねる夜があったらいいと思う。
疲れて乗った電車でがたがた揺られて、シートに吸われる。音はすっと無くなり、時間の感覚が溶けてゆく感じ、非常によくわかります。。そうそう。いつもはこんなこと絶対ないのにね。
一晩を描いた作品の中でもアケルマンの『一晩中』なんかを想起しながら観ていたのだけど、中盤くらいから『シモーヌ・バルベス、あるいは淑徳』が色濃く浮かび上がってきた。
救急病院のひとこま。ゆるゆるな病院スタッフを掻い潜っておきる緊張感と冷たい悲しさ。最後まで見届ける勇気と優しさ。マイノリティの彼女がフラットに向けるまなざし。
いくつものエピソードが重なり合う一晩の出来事で、この病院を訪れるシーンが一番好きだな。(お犬が無事でなにより。)
人はもう会うことはないだろうなという相手には、なんとなく心の内側を少し見せてしまうのかね、無意識に。
明日はお休み、って夜にソファにもたれかかってうとうとしながら観たい作品である。