えびちゃん

コンパートメントNo.6のえびちゃんのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
5.0
ハァ?めっちゃいいんだが……コッコラのパン屋オリ・マキも大好きな作品だが、こちらもとても良い…本当に良い…。
主人公の孤独と恋人の心が離れてしまっていることのひんやりした感覚と、雪が溶けていくような友情の交歓がざくざく刺さってきて中盤からマスクの下で嗚咽してた。わたしは孤独とか寂しさをあまり感じない人間なのだが…。
旅の道づれリョーハがかわいいな。愚かだし、マジでダメなやつだけど人懐っこくてわからないことをなぜわからないのかきちんと言えて、そしてそれを否定しないで。
老婦人の家に暖炉があって、酒があって、猫もいるから一緒に行こうよ、への主人公の返答が「あとはバラライカ?」って返すの性格悪過ぎです。リョーハはその皮肉に気づかなくて「楽器はないんだ(しょぼん)」とマジレスしてしまうのがまたなんとも切ない。このふたりの知的レベルの噛み合わなさは少しずつリョーハのコンプレックスを刺激して傷つけていく。(しかし決して主人公がインテリというわけでもない。人の言葉を借りるところとか。)
正直キスとかしなくてよかったと思う。でも旅の感傷とかなんやらがまぜこぜになって一緒に過ごした相手のことをなんとなく恋っぽいかもと錯覚してしまう感覚もわからなくはない。だからあのキスも違うけど違わない。こういう「わかる」が断続的に溢れている作品だった。そして「語られなさ」がとても絶妙。リョーハの過去や主人公のこれからを鑑賞者に委ねてくれる。
もう会うことはなくてもソウルメイトとしてお互いの心に永遠に生き続けてほしい。
映画を観たというよりともに旅をしたという気持ち。わたし自身が盟友を得たようなそんな幸せな気持ち。ほかほかしたままその夜は眠った。
えびちゃん

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