えびちゃん

SELF AND OTHERSのえびちゃんのレビュー・感想・評価

SELF AND OTHERS(2000年製作の映画)
5.0
牛腸茂雄さんのことを思うと胸がざわざわする。叶うことはないが、彼と正面から向き合ったときに、やはりぎょっとしてしまうだろうし、それをきっと悟られてしまうだろうという後ろめたさ。見つめられることへの不安のような。たぶん、撮られていた人たちも言葉にできないざわつきを感じて、そのままフレームに納まっていたのではないかな。
牛腸さんの撮った写真、仲間たちと撮った映画、佐藤真さんの撮った映像の上に、手紙の朗読、被写体になった人のインタビュー、本人の肉声が重なる。かつて彼が暮らした加茂や渋谷、三鷹の今をゆっくり辿っているだけなのにグッとくるものはなんだろう。風景は全く変わってしまっているだろうに、仲間と笑い合ったり、歩きながら思索をめぐらせたり、人を前にファインダーを覗いてシャッターを切ったりした、そんな時間が確かに存在したんだと言っているよう。そして肉声のテープ。聞こえますか?の問いに胸がはち切れそうな思いがした。聞こえているし、伝わっているよ。

昨年11月にみた写真展はこじんまりとしていながらも本当に素晴らしかった。手紙や詩も展示されていて、デザインされたように粒のそろった几帳面な文字に何とも言えない悲しさが込み上げてきて、すこし泣いた。なんで彼なんだろうな、なんでもういないんだろう。
"SELF AND OTHERS"
彼はたった36年の一生を通して、嫌というほど自己と他者を見つめてきただろう。
ままならない人生を、ストイックに、朗らかに生ききった牛腸さんを思うと、やっぱり心がざわめく。
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