うみぼうず

ノスタルジア 4K修復版のうみぼうずのレビュー・感想・評価

ノスタルジア 4K修復版(1983年製作の映画)
4.0
初タルコフスキー作品は映画ではなく詩を映像で体験している感覚。芸術作品を愉しむには教養が必要というが、この作品を余すことなく愉しむには教養と想像力不足を痛感する。
誰かの夢の中にいるかのような、しかも現代日本を生きる者にとっては悪夢に近いような、実態のない不安と焦り。

それでも映像美は明確で、特に4Kだからか?石や水、コートの質感が細部まで明瞭に映し出されている。シンメトリーは何を意味するのか考えながら観ていたが答えは出ず。シンメトリーは人工物の(イタリアの)建物でしか現れず、故郷の幻想や自然物の中では出てこないので、機能美としての美しさ=西側諸国の利便性や現実性の表現かと推測する。ゾッとするほど美しく、シンメトリーの中でのパン&ズームで人物の置かれている立場の変化を繊細に捉えているのかな。

曖昧ながらニュアンスを感じ取ったところ
・ゴルチャコフは幻想世界(故郷への郷愁含む)、通訳は現実/物質世界を重んじている
・通訳の女性が電話で 恋人が精神世界に興味がある と言ったのはゴルチャコフに対しての強がり(恋人は物質世界の権化のような目と態度だった)
・シェパードナイス演技。何故シェパードなのか?牧羊犬(人は子羊)だから?
・ゴルチャコフは故郷には以前のように戻ることはできない
・長回しによる視点の移動と時間の経過による没入体験
・細部までこだわった'音'。(蝋燭温泉歩きでの息遣いなんか最高)

解説や考察読んでもいまいちスッキリしないところ
・ゴルチャコフがドメニコに固執したのは何故か
・ドメニコの行動原理(世界の終末、ドメニコの結末など)が本当に理解できない
・ドメニコの家に飾ってある手足のない赤ちゃんの絵(これ以上ない絶望?)
・ドメニコの家で、彼がどこでもドアのように扉を開けくぐる理由
・1+1=1
・そもそも世界の救済とは?

2度3度と鑑賞を重ねれば感想も変わってくるのだろう。他のタルコフスキー作品を観たうえで、再鑑賞したいと思う。
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