ryosuke

ストップ・メイキング・センス 4Kレストアのryosukeのレビュー・感想・評価

4.2
 トーキング・ヘッズは“Remain in Light”を聞いたことがある程度でほとんど知らないも同然だったのだが、これは楽しませてもらった。IMAXシアターの最後方端に席を取ったのは大正解で、周囲を気にせず首を振り足を揺らしながら鑑賞できた。映画はシラフで画面をガン見するものだと思っているが、これはアルコールを入れて見てもいいかもしれない。
 ライブの楽しみがそのまま再現されているような映画なのだが、なかなか簡単なことではないと思う。ライブ以外のドラマを無理に挿入しようとせず、カメラが熱量に忠実に随伴し、余計なことをしない。それが大事なんだろうな。とはいえ無作為というわけではなく、的確なカット構成がエネルギーのうねりを存分に視覚化していると思う。ジョナサン・デミは『羊たちの沈黙』を見た限りでは自分のエゴより被写体の魅力という人に思えたが、その特性が良い形で出ているのではないか。
 ファーストショット、白い床に侵入するギターの影。そのままトラッキングショットが足元を追い、ティルトアップで登場するデヴィッド・バーン。イカしている。時折よろけてギターの演奏を中断しつつの“Psycho Killer”は彼のパフォーマーとしてのセンスが迸っている。メンバーが一人一人追加される構成もいいなあ。“Thank You for Sending Me an Angel”でドラムスが導入され、その周囲をグルッとカメラが周る。ベーシストのティナ・ウェイマスの左右に腰を振るノリがキュート。“Slippery People”での女性バックボーカルペアとバーンのカットバック。切り返しは魂の交感であるということ。バックボーカルの二人の間に野蛮に分け入ろうとするカメラのエネルギー、二人とバーンが向き合って足を上げながら同調する楽しさ。
 “Life During Wartime”はロングショットで横並びのメンバーがランニングするのが可愛らしく、バーンのクリオネのような奇妙なダンスが様になっていることも凄いな。クリオネダンス以外も、その表情も、磔にされているようなポーズも絶妙に変で何とも言えない趣がある。死にかけのカナブンのようにひっくり返った彼とドラムの一撃のカットバックは地の振動が直接彼を苛めているようで面白いアイデア。
 “Swamp”の赤い舞台を背景に、完全に顔が切り替わり悪魔に憑かれた痴呆症のような表情を見せるバーンの憑依。体をガクンと曲げてスイッチを切るかのように曲を終わらせる。“What a Day That Was”はシンプルな曲の求心力と時折切り替わるロングショット(背景に長く伸びた影がスタイリッシュ)で魅せる。“Once In A Lifetime”での音楽そのものに打ちのめされているような痙攣、音で自らを痛めつける苦行といった趣のバーンの怪演も見事。
 “Genius of Love”でトム・トム・クラブにバトンタッチ。あの強烈なフロントマンを引っ込めてもまだこの出力ってのが凄い。肉体的なリズムの上に乗った幻想的な女性ボーカルがいいね。フリーズ!の後のベーシストのはっちゃけダンスが素敵。“Take Me to the River”は美しいメロディーが大団円の空気を作り出し、ここにきてバンドメンバーが紹介される。全員に焦点を合わせるカット構成と共に、緻密かつカオティックに物語が閉じようとする。しかしここで、ラストの“Crosseyed and Painless”はイントロの途中で一気にリズムを切り替え、やはり曲者だなと思わせる。ここにきて映像スタイルも進化し、バンドメンバーの優れたプレイを素早いパンで繋いでいくことでバンドの一体性と実力を誇示する。遂には観客もごちゃ混ぜとなり......バーンはこれだけカマしておいて軽い感じで颯爽と退場。粋だな。無駄なことをせずにさっさと幕を下ろすのが潔くて素晴らしい。
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