真鍋新一

ストップ・メイキング・センス 4Kレストアの真鍋新一のレビュー・感想・評価

3.5
デヴィッド・バーンの顔が怖いからという理由で気になっていたのにずっと観たことがなかった。ニューウェイヴは苦手なので1秒もトーキング・ヘッズを聴いたことがない。したがって思い入れもない。気になるが私には関係のない映画だと思っていた。しかし、ふだん音楽の話をしているところを観たことのない映画オタクたちが熱狂し、「これが映画だ」「これが音楽だ」などと言い合っている。悔しいので観に行くことにした。

下手に余計な知識を持たないままに観ることができて良かったと思う。完全なる聴かず嫌いなおかげで、すべてにおいて「そういうものなのだ」と思うことができるから。冒頭の曲からひとりで現れたデヴィッド・バーンが間奏でよくわからない動きをしていて、転んでしまったらどうするのだろう?と心配になっていた。でも、そういうものなのだ。

途中のトム・トム・クラブのコーナーでジェームス・ブラウンの名前が連呼されるように、シュールな歌詞の世界を抜きにすれば80s調にアップデートされたファンクで、整然としつつもホットなリズムに最後まで魅了された。彼らのステージは音楽というか運動で、私のようなオタクが市民体育館のトレーニング室でルームランナーをしながら聴くのにちょうど良いと思った。

映像的な部分でいうと、メンバーと一緒にステージに上がって踊っているような気分にさせられる終盤のカメラワークが素晴らしかった。まず映像に撮られることを前提としたステージ演出で、カメラがいてやりにくい!みたいなカメラクルー側とミュージシャン側のぶつかりが微塵も感じられないことも良いのだろう。撮られる側がまな板の上の鯉になることを楽しんでおり、ライブフィルムとしては非常に理想的な作品だと思う。

意味を求めないニューウェイヴの歌詞が苦手であるのと同じように、絶対的な天才やカリスマも苦手である。だから私は曲によって楽器を持ち替えて手堅くサポートをするジェリー・ハリスンのような人にむしろ憧れる。クレジットによると、今回のレストアに際してもサウンドに関しては彼が監修したらしい。とても偉い。尊敬する。
真鍋新一

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