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ハリウッド監督学入門の東京キネマのレビュー・感想・評価

ハリウッド監督学入門(2008年製作の映画)
2.2
てっきり映画志望の青年に向けた「映画監督入門ビデオ」だと思っていたのだが、そうではなかった。

映画志望の若者に、ハリウッドで映画を撮りたいのであればこのくらいの能力がないと監督なんか出来ません、だから映画なんか諦めてまっとうな仕事に就きなさい、という話だったら分るなあと思っていたのだが、全然違っていた。

要は、この監督がハリウッドで映画を撮る時の違和感をいい訳にしているドキュメンタリーだ。というよりも、愚痴だ。

文明批判にも産業批判にもなっていないし、ただあんたがハリウッドのシステムを知らなさ過ぎたのね、というだけの話だ。(う~ん、そういう内容をビデオにして金取るっていうセンスがある意味すごい)

監督は結構流暢に英語を喋っていてインタヴューも直接やっているんだが、調べてみると文化庁芸術家在外研修員としてイギリスに何年か滞在していたらしい。つまり、日本の税金で映画を勉強していた訳だ。

税金使って勉強してたんだったら、もうちょっと欧米の映画システムくらいは勉強しといて欲しいものだが、恐らく本人はそういった事なんかまったく興味がなかったのだろう、ほとんど知らないことばかり。DP(撮影監督)やグリップのシステムも知らないのには驚きだった。本当に突っ込んでドキュメンタリーをやるんだったら、日本の撮影部や照明部との成り立ちの違いやら、機能の差なんかまで突っ込んで欲しかったところだが、上澄みをまさぐっただけで終わり。現場の効率を考えれば、DPなんて出てきて当たり前の話なんだが、日本ではそれが出来なかったのは何故かっていう話もあってしかるべきなんだけどなあ。こんなちょっと勉強すれば分る程度の話を、ハリウッドに渡ってからの驚きとして説明してるシーンなんかみると、あ~あ、とため息しか出てこない。

ハリウッドのプロデューサーとの話は、まるで大人と子供の会話を見ているようだ。ハリウッドにとってみれば映画は産業な訳で、工業製品を創る工程と同じなのは当たり前だろう。周りは芸術だとおだててくれるが、実際はお客さんを呼べる映画を作れる人かどうかで判断してるのは当然の話。全てビジネスの話なんだから。

まあ、ドキュメンタリーとしてはどうでもいい内容なんだが、ちょっと面白いコメントもあった。

“日本ではロング・ショットやミディアム・ショットの1カットで製作者の意図を理解する濃密なコミュニケーションが成立しているのかも知れないが、ハリウッドではそういった関係はない。必ずアップ・ショットを入れて意味を持たせないと、スタジオも観客も理解してくれない”

これ皮肉で言っているんだろうなあ。

“製作者サイドが作品の仕上がりに自信を持っていて、テスト・スクリーニングが悪かった場合の理由は実は二つしかない。それは、テンポが悪いか、エンディングが違うかのどちらかだ。”

随分含蓄のある言葉だ。というよりも大人の解釈だなあ、と感心する。



映画を芸術だと称してバカを持ち上げ、ビジネスを真剣に考えなかったお陰でプロが全く居なくなってしまった日本と、“お客様は神様です”を実践して世界中に映画を売り込んでいるアメリカ。どちらが正解なのかは結論が出てしまっているが、そこに辿るまでの総括くらいは監督にして欲しいところだ。でも、出来ないんだよなあ、これが。だって日本映画がどうなったって他人事なんだもん。。
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