ひゅうどんこ

五瓣の椿のひゅうどんこのネタバレレビュー・内容・結末

五瓣の椿(1964年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

「世の中の掟や人と人との誠を汚し泥塗れにした上、笑い種にしたんです。許せるでしょうか?」

「ケダモノ相手にゃケダモノ並みの了見持ちゃいいんだ。」


 人の世は魑魅魍魎跳梁跋扈。。
穢れなき清らかなものを探すほうが難しい。
それはそうだ。善と悪、光と影、表の顔と裏の顔、、にこいちワンセットが人なのだから。

それでも心根美しく優しい人はいる。
主人公のおしのはそんな女である。

しかし、哀しいかな決して逃れること変えることが叶わぬものもある。。血だ。
不行状な親が心を入れ換えたり、家庭事情で親が変わったりすることはあっても、残念ながら実父母から引き継いだ血は決して変えることが出来ない。


 この物語りを、執念を持った女の復讐劇と見做すのもよろしかろう。
でも私には違ったものに見える。

おしのは、お仕置きという死が確定した時に、初めて心の平穏が訪れ、その時を心待ちにし、近づくにつれ心も体も表情すらも清らかになってゆく。
とても常人には思い至らない境地だが、命が絶たれることによって得られる喜び、それは我が身に流れる堪え難く濫りがわしい血を断つことが出来るからではないだろうか。

しかしそれすら、安らかに許してはくれないのがひと世の常である。
御定法が人を苦しめ、最終的に我が身を追い詰めるのは、昔も今も世間という地獄なのだ。




 ちょうど一年前に、ひとりの大切なフォロワーさんが逝った。

本作はそのひとが、短い生涯ながら幾千もの映画を観てきた中で、上位八番目に位置づけされていた作品である。

あなたがどんな気持ちでこの作品を観ていたのか、どんな気持ちで自分を産んだひとを見ていたのか、本当のところは知らない。

けれど、毎年毎年、何通も何通も手紙を書き続けていたことを知っている。
一度も返事なんか来ないのに。


 女優 岩下志麻は、映画監督 篠田正浩と結ばれ、生涯のおしどり夫婦となった。
あなたも、あったかい家庭を切望していたね。
我が子をその手に抱きたかったとも。

この映画の原作者 山本周五郎の作風を、
「あの人は庶民なんか信じていないでしょう。そういう読まれ方をされていることが口惜しかったのではないですか。
─ ─ ─(中略)─ ─ ─
聖なる心をいだいていながら、汚辱にまみれた世の中で、まるで見えていないものを発掘するんです。」
そう評したのは篠田正浩だった。

その周五郎作品に岩下志麻が出演、
野村芳太郎監督が考える周五郎の世界を、
川又昂のカメラが見事に捉えた。

あなたの好きな人が詰め合わせされていて、我が身の人生にそれを重ね合わせることで、忘れられない作品になった、そう思ったのだけれどどうだろうね。

えっ、なに?全然違う、バカじゃねーのって?
よーし、やってやろうじゃん。
ずっと不満に思ってたことがあるんだ。
それは、一度の口論もしないまま勝手に逝ってしまったこと。
上等だよ。喧嘩しよーぜ!

叱りにおいでよ 来れるなら
地球の夜更けは 淋しいよ……


旅立ちから1年
怒って降りてくるあなたを待ち焦がれ



》》6/24(土)追記》》
 このレビューは、生前にさやか@asato-mさんと親交のあった3名の方にもお声掛けして、彼女を偲んでMark!したものです。
 下記レビューも是非どうぞ!

❨HK@kusa3104さん❩
『網走番外地』https://filmarks.com/movies/32073/reviews/155145986
『昭和残侠伝』https://filmarks.com/movies/2057/reviews/155146039
『日本侠客伝』https://filmarks.com/movies/35775/reviews/155146087

❨さりさり@sarisarisarryさん❩
『時をかける少女』https://filmarks.com/movies/20079/reviews/155135992

❨tamago@gotamaさん❩
『座頭市血煙り街道』https://filmarks.com/movies/4881/reviews/155178773