囁きのwhisper

CURE キュアの囁きのwhisperのレビュー・感想・評価

CURE キュア(1997年製作の映画)
5.0
この映画に初めて出会ったのは、確か高校3年の夏。その年は受験生にも関わらず1日1本映画を観る生活をしてて、その中で「そういえば黒沢清ってまだ観たことないなぁ」と思い立った。
代表作を一通り調べて、どうやら「CURE」という映画が世界的に評価されたらしいと知る。家から一番近いTSUTAYAにはレンタルがなくて、夏休みにも関わらず通ってた高校の近くまで自転車を走らせた。

最初観た時は、よく分からなかった。確かに役所広司の演技力はすごいし、萩原聖人のミステリアスさも引き込まれる。ただ、
繰り替えされていく催眠と凶行を淡々と描く演出は、その時の自分の“面白い”の基準からは外れていたし、ラストのファミレスの長回しも、引き裂かれたエンドロールもよく分からない。

それなのに何故かこの映画が頭から離れなかった。あの終わり方は一体何なのか、そもそも間宮は何者なのかを知りたくて、2回、3回と繰り返し観た。ただ本数を重ねることに熱中していた自分にとって珍しいことだったと思う。

繰り返し観ていく内に、この映画が人を惹きつける理由が分かってきた。切れかかった電灯、ビルの屋上から遠くに見える建物の光、一見不必要に挿入される踏切の光...
間宮が操る催眠術と同じような仕掛けが、この映画自体にも施されている。

ラストの解釈もできるようになった。妻の旅行支度を見て、一瞬だけ挿入される包丁のカット。そして次には“空”を走るバスの車内。クリーニングの消滅、ファミレス店員の不可解な料理の下げ方...バランスを崩した世界で高部にもたらされる、闇の力の伝導。
なんと恐ろしいダークファンタジーであり、そしてなんとロマンティックなラブストーリーであろうか。

この映画は自分に多大な影響を与えた。間宮の継承する力に憧れて、大学では心理学専攻に入った(結局、期待していたものとはだいぶ違ったが)
加入した映像制作サークルでは、この映画を自分なりにアレンジした短編も撮った(今思うとあまりにそのまんますぎて居た堪れなくなるが、クライマックスは本当に美しい映像が撮れたと思う)
今でも、映画好きに会うと必ずこの映画が好きという話をして、盛り上がることも多い(職場に、間宮の筆跡を真似て練習していたという人がいて驚いた)

今回改めてこのレビューを書いたのは、新文芸坐で劇場公開されたのを観に行ったのがきっかけとなる。もちろん何度も観ているから内容は覚えているものの、新文芸坐の劇場はかなり音響が良く、催眠の説得力をより感じられる体験だった。何より、生涯ベスト作品を劇場で観ることができるのは嬉しい。

面白かったのは、ここまで愛する映画だと、“面白いものを観る”という感覚よりも“好きであることを改めて確認する”という感覚になる。自分の価値観の基準として、これからも心の中心に位置することになるであろう1本である。
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