ダイアー教授

危険な情事のダイアー教授のレビュー・感想・評価

危険な情事(1987年製作の映画)
3.8
題:包丁夫人

約20年ぶりに鑑賞。
初見は中坊の頃にレンタルビデオで初見。その後も洋画劇場等でちょいちょい観る機会がありました。

グレン・クローズが演じたメンヘラ女、アレックスが強烈。
ひと昔前の映画雑誌で“悪女特集”みたいなもんがあれば必ずエントリーされていたような気がします。

大人になった今とガキの頃とで大きく観え方が変化した映画。
3つにまとめてレビューします。

1.印象の変化
ガキの頃のアレックスに対する印象は
「アレックス・フォレスト!この女は極悪人の犯罪者!マイケル・ダグラスの家庭を壊し、車を壊した。基地の中に入れてはいけない人種!」
だった。

しかし、大人になって観ると感想が大きく変わり、何だか彼女がとても可哀想に感じる。
いや、アレックスだけでなく、奥さんも、娘さんも、ウサちゃんも…
そしてウサちゃんが象徴するアレックスのアレも!
みんな可哀そう。
アレックスはマイケル・ダグラスの…いや男のエゴの犠牲者だと思えました。

ちなみに、同じ「マイケル・ダグラス受難の映画」でも『氷の微笑』と『ディスクロージャー』ではシャロン・ストーンおよびデミ・ムーアに対して、私は悪い印象は抱きませんでした。
ガキの頃にアレックスに悪い印象を持ったのは、演じたのが年増で華の薄いグレン・クローズだからだと思います。
男は美人の肩を持つものです。

2.演出
映画的な演出が非常に洗練された作品であることに気付いた。
例えば、ダグラスとアレックスが対面する机のペン立てにキンキンに研いだ鉛筆が刺さっていますが、2人のその後を暗示している。
アレックスの部屋の照明がオペラの舞台照明っぽいのは、本作の背景に「蝶々夫人」があるからでしょう。

3.蝶々夫人
本作はプッチーニのオペラ「蝶々夫人」が背景にある。
「蝶々夫人」…この作品、純愛だなんだを歌いながら根底には男尊女卑、女性軽視があります。時代が時代だからしょうがないでしょうが。

『危険な情事』のアレックスは蝶々さんが自分の喉に突き立てた包丁を、女の敵に対して突き立てます。
包丁はファルス的象徴!それで男を突き刺します。
『危険な情事』はある意味「蝶々夫人」に対するアンチテーゼであると感じました。

グレン・クローズ女史は本作で振り回した包丁を、今も大事に持っているそうです。
自分の女優のキャリアを切り開いた家宝としてでしょうか?