アー君

独裁者のアー君のレビュー・感想・評価

独裁者(1940年製作の映画)
4.5
新年最初の映画は、今回も引き続きチャップリンの名作シリーズである。

喜劇とシリアスのバランスに過不足ない秀逸なドラマであった。またチャップリンの映画としてトーキー(映像と音声が同期されている)が初めてだったためなのか、床屋での髭剃りシーンとクラシック音楽(ハンガリー舞曲第五番)を合わせるシーンは妙に気合が入っていてリズミカルで面白く、公開当時の受けはかなり良かったのではないかと思う。

この映画ではチャップリンが一人二役を演じており、過去に手塚治虫の「アドルフに告ぐ」では、同じアドルフという名前を持った三人の人生が描かれているが、映画とは似ても似つかない内容かもしれないが、手塚はそれなりに「独裁者」の影響を受けて作られた漫画ではないだろうか。

ヒンケル党の突撃隊はナチスのSAを参考にしているようだが、当時の荒くれ者という描写はリアリティはあった。(リーダーであったレームは最終的にヒトラーと袂を分かち銃殺。ヒムラーのSSが吸収。)

そして最後の演説シーンは、評判どおり素晴らしく私たちに強く訴えるメッセージであった。第二次世界大戦が始まった時期のため外交的な忖度として、このエンディングには周辺の反対があったようだが、独立した製作プロダクションであり、チャップリンに決定権があったためである。仮にもう一つの当たり障りないエンディングであれば、この映画の評価は低かったであろう。

しかしドイツと共に戦った敗戦国である日本の立場からすれば、もちろんナチスが行ったホロコーストのような惨劇は決して許されるべき事ではないが、世界で唯一の被爆国である事は忘れてはならない。

チャップリンとヒトラーは同い年(1889年生まれ)であり、チョビ髭をお互い生やし、幼少時から青春期は貧しく苦労している事などの共通点が多いが、私生活において女性遍歴になるとヒトラーは少し淡白に見られるぐらいに、(溺愛した姪のゲリとの問題はあったが。)チャップリンは複数の女性と婚姻経験があり、50代で10代の女性と結婚するあたりは、奔放というよりはかなり逸脱している印象はあるだろう。

年末から年始にかけて巷で話題のタレントの女性問題による報道であるが、民間と行政が手を結んだ官民連携が発端であり、そのため社会通念上の規範としてコンプラなんとかを重視しているらしいが、それ自体がちゃんちゃらおかしい。トカゲの尻尾の再生は1度までが限界。日本における芸人のルーツは河原乞食である。そして、チャップリンでさえも政治利用された民主主義の傀儡(かいらい)だったかもれない。彼から何かを学べとまでは言えないかもしれないが、芸人のサラリーマン化に憂う日々である。

[Prime Video/KADOKAWAチャンネル]
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