LEO

乱のLEOのレビュー・感想・評価

(1985年製作の映画)
4.0
シェイクスピアの「リア王」と毛利元就の「三子教訓状」を元にした時代劇で、構想から9年、当時の日本映画で最大規模となる26億円の製作費を投じた大作。
最近お得意のBSで放送されていたので久々に何度目かの鑑賞をした。

前から感じていたけれど、本作には「蜘蛛巣城」と多くの共通点を持たせているような気がする。
主人公のメイクしかり、ロケ場所しかり、etc.etc.
特に前半の見せ場となる三の城の落城シーンは、奇しくも「蜘蛛巣城」と同じ場所なのだそうである。

しかし本作と「蜘蛛巣城」の明らかに違う部分は、「蜘蛛巣城」は当時37歳の三船俊郎と47歳の黒澤監督による、下克上で権力を奪取する物語で、反逆、暴発、挫折など、言わば勢いある“若さ”を描いている。
一方、本作「乱」は53歳の仲代達矢と75歳の監督による、権力の座から引退する物語で、年寄の後悔、懺悔を描く。
実際に一文字秀虎は黒澤監督自身を投影したキャラらしいし、「蜘蛛巣城」との勢いの差は歴然だ。

ただ各映画祭で衣裳デザイン賞、外国語作品賞、メイクアップ賞、撮影賞、音楽賞、監督賞と数々の賞を受賞している通り、美術関係に関しては比類のない出来といってもよく、国内外で黒澤の最高傑作の一つとして高く評価されているのもうなづける。

例えば富士山麓の御殿場に4億円をかけて作った巨大な三の城のオープンセット周りでのシーンは、馬で走ると土埃がよく舞っている。
これは黒い火山灰の上に石灰を撒いているからなのだが、メイキングのカメラで観た時はマーブル模様に見えて非常に不自然に感じた。
しかし同時に撮っていたメインカメラの映像を見ると一切その不自然さが無い。
つまり黒澤監督の目はカメラそのもので、あの壮大な画は生み出されるのも必然なのだ。
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