keith中村

噂の二人のkeith中村のレビュー・感想・評価

噂の二人(1961年製作の映画)
5.0
 最初に観たのは、もう35年くらい前。
 オードリーとシャーリーの主演で、「噂の二人」なんてお洒落とも解釈できる題名なので、アゲアゲでノリノリな(などという言い回しはまだなかったが)二人のイカした(などという言い回しはもうなくなっていたが)コメディかと思って観たら、背筋の凍るような映画だった。

 当時すでにヘイズ・コードの存在は知っていたが、いや、知っていたので、「うわ~、攻めてんなあ、この映画」と思った。
 何しろ、「同性愛」と「自殺」というMPAAによって規制されたものを二つも呈示している。
 「同性愛」はヘイズ・コードでは「Any inference of sex perversion」すなわち、「性的倒錯を匂わせること」と表現される規程に抵触する。「自殺」はヘイズ・コードとして明文化しては規程されていないが、「ユダヤの王国」たるハリウッドがキリスト教文化に阿った自主規制がヘイズ・コードなので、キリスト教的大罪である自殺はほとんど描かれなかったのだ。
 
 最近で言うと、マッツ・ミケルセン主演のトマス・ヴィンターベア監督作「偽りなき者(2012)」が本作を下敷きとしていて、(後、その視点を噂を立てる少女側に変換したのが「つぐない(2006)」)これだけ最近の作品でも相当ヘヴィだったのだが、1961年当時の観客は本作をどう感じたのだろう。

 1980年代に観た、高校生だった私でも、「とんでもなく重い作品だ」とどんよりしたのだから。
 さすがウィリアム・ワイラー監督作品。
 
 余談だが、シャーリーは「アパートの鍵貸します(1960)」でも、自殺してましたね。未遂だったけど。
 思えばまた、その監督のビリー・ワイルダーも、「攻めた映画」の作り手でした。
 「お熱いのがお好き(1959)」も「性的倒錯」描写ってことで問題になったものね。
 
 さらに余談になるけど、「お熱いのがお好き」は問題作なのでヘイズ・コードを通さずに公開されたという話があるけれど、調べたら19281番のMPAA承認番号がついてますね。次の19282番が同じ1959年のガイ・ハミルトン監督作「悪魔の弟子」なので、後に承認されて附番されたわけじゃなく、リアルタイムに承認されたってことだ。「MPAAの承認なしに公開」って、都市伝説なのかな。
 
 さらにさらに余談。
 本作でシャーリーの部屋に「Tony」って名前入りの男性の写真がピンナップされてましたね。
 解像度の加減でよくわからなかったけど、あれってトニー・カーティスのブロマイドじゃなかった? つまり、「お熱いのがお好き」主演の。
 これ、ワイラーからワイルダーへの「俺も一緒に闘ってるぜ!」というエールに思えました。思い込みかも知らんけど。
 日本で言うなら、日活ロマンポルノが摘発された年に、鈴木則文が東映作品の「徳川セックス禁止令」で援護射撃したみたいな。
 
 いかん。逸れまくってる。
 一回元に戻そう。
 今回観なおしてから調べて、初めて知ったんだけど、本作はワイラー自身の「この三人(1936)」のリメイクなんですね。
 というか、リリアン・ヘルマンの1934年発表の戯曲「子供の時間」を2回映画化したってことだけど。「子供の時間」は本作の原題でもある。
 「この三人」の原題は「These Three」。
 そっちは未見なんだけれど、どうやら原作に近いのは「噂の二人」のほう。
 「この三人」はヘイズ・コード制定からたった二年後の作品なので、同性愛じゃなく、本作にも登場する医者のジョーを中心とする「ドリカム編成」aka「突然炎のごとく」な関係に変更してあるみたい。
 ちなみに、「突然炎のごとく」は本作の翌年の作品ですね。ま、フランスには自主規制はなかったわけだけど、というかなかったからこそ(外国映画なら自国の自主規制と裏腹に、ほとんど規制されずに上映されたアメリカでは)、トリュフォーのこれは大当たりしました。
 でも、それに近い関係性を1936年にワイラーはすでにやってた。
 ヘイズ・コード下では、同性愛も厳しいけど、「男性を共有する三角関係」だって相当攻めた表現だよね。
 
 あと、今回観なおして、生徒の一人に「エイリアン」のヴェロニカ・カートライトがいたことを発見。
 メアリーから脅迫されるロザリーちゃんね。
 で、見てると「サウンド・オブ・ミュージック」のトラップ一家でいちばん「私のお気に入り」のブリギッタちゃんにそっくりなんですよ。
 ブリギッタちゃんを演じてたのはアンジェラ・カートライトだったよね。
 あれ? 苗字一緒? ってなって、調べたら、知ってた人には「何を今さら」って思われるけど、姉妹だったんですね。
 二人のフルネームは昔っから知ってたけど、シナプスつながってなかったわ~!
 
 そのロザリーを脅す、いちばんの悪役のメアリーを演じてたのは、Karen Balkin(バルキン? バーキン?)って子役さん。
 この人、この後ちょっとテレビ映画出ただけで目立ったキャリアないみたいだけど、本作では相当ムカつきますよね。
 それは、役者として相当素晴らしいってことなんだけれど。
 
 まあ、でも、大人から叱責されたら泣く程度の悪役だから、まだ可愛いね。
 「悪い種子(1956年)」のローダちゃんに較べたら、全然まし。
 「悪い種子」は、「ほのぼの映画監督」だと思ってたマーヴィン・ルロイなのに「怖ええよ、あんた!」って作品でした。
 ちなみに、「悪い種子」もヘイズ・コードによって、ラストが若干マイルドにされてる。でも、そこが「こんだけ怖いもん見せられて、その終わり方かよ!」ってのが逆にサイコパス過ぎて、とんでもない。
 やっぱ、当時の巨匠は規制に従う態で、ものすごく挑戦してるよね。
 
 私のレビューは今回も、結局余談で終わるんだけど、「悪い種子」は1985年にテレビ映画「死の天使レイチェル」としてリメイクされました。
 こっちのラストは原作通り。
 昔に日本でもテレビで放映されたことがあったらしくって、かつて、それを観た友達がやたら褒めてた。
 褒めるんだけど、私はテレビ放映を見逃したので、ずいぶん後になってAmazon USAからDVDを輸入して観たら、原題も同じ「Bad Seed」やんけ! ってなりました。
 ま、これはこれで、デヴィッド・キャラダインがどんどん酷い目に遭っていくのが面白くって、好きなんだけれど。

 オードリー主演作で同じく社会問題に切り込んだ「許されざる者」も見返したくなりました。
 あ、クリント爺さんじゃないほうね!
 
 クリント爺さんといえば舞台設定がそっくりな「白い肌の異常な夜」ってあったよね! 本作と「正反対で性犯罪」な映画だったけど(笑)