ひでやん

乱暴者のひでやんのレビュー・感想・評価

乱暴者(1952年製作の映画)
3.3
激しい対立の中にある愛憎と悲劇を描いたメキシコ時代のブニュエル作品。

立ち退きを迫る地主とアパートの住人による対立で始まり、貧しい借家人が団結する中で、弱きを助け強きを挫く英雄が描かれると思いきや、ブニュエルは弱者視点を序盤で捨て、ならず者が大暴れ。

腕っぷしの強い大男が地主の用心棒となり、弱者を痛めつけるもんだから感情移入なんてできやしない。冒頭で英雄フラグが立った男を殴り、死亡フラグを立てる乱暴者。「嫌な予感がする」と言った女性に「息子を壁に叩きつけるぞ」と脅し、唾を吐く乱暴者。それが本作の主役である。

「革命分子どもを皆殺しにしてやりたい」と言う地主、「私は病気で死にそうなんです」とくわえ煙草で言う病人、用心棒を誘惑する地主の嫁など、好きになれない奴ばかり。

ブルートにとって地主は神であり、3回登場する鶏はキリストの言葉を表しているようだが、そこはかとなく感じる暗喩の上に、主人公の嫌悪感がのしかかった。

乱暴者が愛によって改心するのならいいが、相手は人妻。真実の愛に巡り逢ったが、相手は殺した男の娘。立ち退きから借家人を救ったが英雄ではなく悪人…救いがない破滅だった。
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