KouheiNakamura

蛇の道のKouheiNakamuraのレビュー・感想・評価

蛇の道(1998年製作の映画)
5.0
車に乗った男が二人。ぽつりぽつりと話す。どうやらこれから何かただならぬことをやらかすらしい。やがてサラリーマン風の男が一言つぶやく、「もうすぐだからね…。」カメラは突然走っている車の正面から見た道を延々と映し出す。上り、下り、曲がりくねった道。そしてタイトルが出る、「蛇の道」。

正直、このオープニングだけで「あ、これ傑作。」と思った。説明的なセリフはほとんどなく、間やテンポやカメラワークで表現する。流石は黒沢清監督。映画らしい見せ方を心得ている。
ストーリーは娘を殺された男の復讐劇…というありがちなプロット。しかし映画はなんとも言えない緊張感に包まれながら、サスペンス・コメディ・アクション・ホラー…と次から次へとその姿を変え観る側を混沌の渦の中へと巻き込んでいく。先の見えない展開、意図の読めないシーンや唐突なバイオレンス…なんだか中毒になりそうな薄気味悪さがたまらない。

いわゆるVシネマとして低予算で作られているのだが、それを感じさせない見事な映像の数々。特に随所で使われる長回し撮影は圧巻。
役者陣もまた素晴らしく、特に香川照之はこの頃から狂気全開で素晴らしい。哀川翔も抑えの演技に徹して渋さ全開。

これだけ濃密な作品なのに上映時間はたったの85分。復讐劇・90分前後・長回し…というと、個人的にはニコラス・ウィンディング・レフンの「オンリー・ゴッド」を想起したがそれに並ぶ大怪作にして大傑作だ。異様な映画を観たい方にはオススメです。
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