あなぐらむ

上を向いて歩こうのあなぐらむのレビュー・感想・評価

上を向いて歩こう(1962年製作の映画)
3.9
移転前の築地市場の講堂で鑑賞。
坂本九主演で贈る青春歌謡映画。吉永小百合と浜田光夫、高橋英樹も登場する豪華な布陣で、オリンピックを前に繁栄へと上を向いて歩いていた時代の、その底辺でもがく人々の青春を「青年の樹」と同じ山田信夫と舛田利雄のコンビが、ジャズとアクションの中に描き出す。走り回るトヨタ・ハイエースが楽しい。
劇中にはエンディングを含め九ちゃんの歌によるミュージカルなシーンがあり、対立する二つの勢力の一触即発という図式も前年の「ウエストサイド物語」をベースにしていると思われる。もう移転しちゃったけど、当時の築地鮮魚市場で働く九ちゃんの姿は見もの。山田信夫と蔵原惟善はこの後組んで、ジャズ映画へと進んでいくのだが、浜田光夫扮するドラムに夢を描く青年にその萌芽が。高橋英樹の若き二名目ぶりに瞠目する。
吉永小百合は魚市場で働く若者たちの宿舎の娘役で、これは「やくざ先生」の北原三枝ポジションなのだが、本人は大学に通っている事から「格差」が見えている。若き日の小百合ちゃんは常に気丈であるため、不良どもにはびくともしない。
足の悪い妹、渡辺トモコの「クララが立った」シーンもあり、結構盛り沢山(というか若干トゥーマッチではある)。
しかし最後でちょっとウルっと来る。ずるいんだよ、物語がほぼ終わった所で、出来立てほやほやの旧・国立競技場を九ちゃん達メインキャストが歌って歩いて、それに開発の為に働いている土木労働者や子供達がカットバックするのね。オリンピック目前の東京で頑張ってる市井の人々への賛歌って感じで、あれは泣くよ。労働者は。