Stroszek

インサイド/アウトサイドのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

インサイド/アウトサイド(2005年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

2005年デンマーク。都市のストリート・アーティスト達のドキュメンタリー。反消費・反広告の精神に貫かれている。出演アーティストは、パリのZevs、コペンハーゲンのAdam & Itso、NYCのKR、Swoon、Earsnot、サンパウロのOs Gemeos、Pigmeus、ジャージー・シティのロン・イングリッシュ。Zevsの“Visual Attack”は、広告掲示板のモデルの額に銃痕をつけたり血の涙を流させたりする。最小限の力で広告写真の力の向きを逆転させる「合気道」のようなもの、という説明だったが、街の女性が指摘していたように、写真の女性を傷つける必要はあるのか、と思う。“Visual Kidnapping”という、巨大な広告写真を切り抜き企業に身代金を要求する、という活動でも、写真の女性を切り刻んでいた。目的が企業広告を攻撃することであっても、私にはそこが鑑賞のノイズとなった。しかし彼の“Visible Is Ephemeral/ Invisible Is Eternal”(「見えるものは短命/ 見えないものは永遠)をメッセージとした、紫外線ライトでしか見えないスプレーでグラフィティを描くという活動は素敵だと思った。グラフィティのはかなさをよく表すコンセプトだ。スニーカーストアを経営し、二つのアパレルブランドの宣伝係でもあるEarsnotは、「ファッションリーダーとしてのストリート・アーティスト」であり、アートよりもその存在が面白かった。いちばん感銘を受けたのは、劇中唯一の女性アーティスト、Swoon。自転車を押しながら街を闊歩する彼女は相当明晰な頭脳の持ち主らしく、グラフィティへの思い入れや葛藤を明言していて参考になる。「広告は実現不可能な理想を掲げる。私はほかの選択肢を作り上げたい」、「私にとっては、グラフィティのいちばん大事な点は、街の通りの最底辺層に、ある種の掲示板を作り出すこと。あらゆる人の考えや感情のためにね。コミュニケーションの開かれた回路を持つことは、ほんとに大事なことなの」「ある構造やシステムの外部にいる必要があったときに、システムの内部にあなたを戻すのが、システムの外部に出ようとして作った作品自体なの。奇妙なことよ…」など、作品の肝となるような分析を次々と行っている。「文化的妨害電波発信者」であり、「広告掲示板解放者」でもあるロン・イングリッシュの「一度システムの内部に入ったら、抜け出すのは至難の技だ」という発言、警察の手が伸びようとしてる場面で発せられた言葉だが、いろいろな局面に応用できる考え方だと思った。とても刺激的で面白いアーティスト映画。

[鑑賞メーターから転載]

2005年デンマーク。原題"Inside Outside: a Film about Vandalism, Art and Vandalism as art"。ストリート・アーティスト達のインタビューと制作風景を収めたドキュメンタリー。「ヴィジュアル・アタック」、「文化的妨害電波発信」、「広告解放」など広告に対抗して街をアートで彩る人々の記録。明確なコンセプトが面白い。作品を制度に評価され始めたSwoonが語るジレンマ(「システムの外部に出ようとして作った作品が自分を内部(制度内)に戻す」)が印象に残る。
Stroszek

Stroszek