LalaーMukuーMerry

八日目の蝉のLalaーMukuーMerryのネタバレレビュー・内容・結末

八日目の蝉(2011年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

私は4歳まで瀬戸内海の小豆島で母と暮らしていました。その前はどこか別のところで暮らしていたようですが小さい時の記憶はほとんどありません。母は女手一つで私を育ててくれました。私をとても大切に思い、優しく可愛がってくれたので、私も母が大好きでした。
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でもある日、知らない大人たちが大勢やって来て私たちを捕まえて、母と私は引き裂かれてしまいました。母とはそれから一度も会っていません。それどころか、私の本当の両親だという大人が現れて、母は生後4か月だった私を誘拐した悪い女だと教えられました。ユーカイとは何かわかりませんでしたが、母が悪い人だという大人たちには殻を閉ざして生きてきました。
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それから本当の“両親“に育てられました。“両親“には感謝していますが、心のどこかに遠慮がありました。”母“は懐かない私に手を焼いたのだと思います。すぐにヒスを起こしました。”母“がヒスを起こすのは私が悪いせいだと思っていました。
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分別がつくようになってから、家にあった誘拐事件や裁判の記事を隠れて読んで、事情が私なりにわかってきました。母は“父”の不倫相手だったのです。母はお腹に子を宿していましたが、“父”に騙されて我が子を堕ろし、その時の後遺症で子供を産めない体になってしまいました。その後で、“母”が私を生んだのです。傷心の母は“父”から身を引くつもりで最後に“父”の家に来た時、たまたま一人だけで寝ていた生後間もない私を見て、衝動的に私を連れ去ったのです。
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私は大学生になって“両親“から離れ一人暮らしを始めました。しばらくした頃、フリーライターの女性が現れて、私の取材を始めるようになりました。はじめは迷惑だったけど、これまで誰にも言えなかった事を思い切ってしゃべることができて少し気が楽になった気がしました。不倫の男性を好きになってお腹に子ができて悩んでいた時だったので、相談にも乗ってくれて心強く感じました。
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彼女のすすめで、私たちは母の足跡をたどる旅に出て、瀬戸内海の小豆島にやってきました。島の風景は微かに見覚えがある気がしました。そして、母と引き裂かれたあの場所についた途端に、私の中に閉じ込められていた優しい母の記憶がはっきりとよみがえって来たのです。それと同時に、お腹の子がいとおしくてたまらなくなり涙が溢れてきました。
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心に突き刺さる話でした。

父親が悪い、感情移入してしまうけど誘拐犯の母親も悪い。けれど子に罪はないのも確か。であれば誰が悪いかより、これからどうするかの方が大切でしょう。この子が大人になって前に進もうとしている時に、周りは何ができるのだろう、母のように私生児を生んで女手一人で育てようとしている彼女に対して? 彼女の進もうとしている道はお勧めできない、と一般的な感覚から言うのはたやすい。でも4歳の時の優しい母の記憶が、彼女の拠り所なのだとすれば、生まれてくる子を幸せにすると覚悟をしている彼女を尊重してあげなければならないのかもしれない…。強く生きるんだぞ、君は何も悪くない。