あーさん

殯の森のあーさんのレビュー・感想・評価

殯の森(2007年製作の映画)
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先延ばしにするのはやめよう!シリーズ 第2弾その1

やっぱり個性的だなぁ。。

河瀨直美監督の作品は、これまで"萌の朱雀"と”あん"しか観ていない。
"あん"は、わかりやすく比較的メジャーな作品とも言えるので、観ている方も多いだろう。樹木希林の名演が印象に残る、素晴らしい作品だった。
"萌の朱雀"は、'97年カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を受賞しているが、一般的にはそこまで知られていないように思う。
どちらかと言うと、こちらから働きかけていかなければ、作品の意図を汲み取りにくい作品かもしれない。

今作も、おそらく後者タイプ。
必要以上に説明しないから、観る人によっては不親切と感じるかも。
例の、感じとる作品、余白のあるヤツだ。。

でも、後から後からじわーっとくる。
私は好きだな。

今や世界的映画監督としてスポットを浴びるようになった是枝監督('18 "万引き家族"でカンヌ・パルムドール他多くの賞受賞)よりもかなり前に、河瀨監督は今作で'07年カンヌでグランプリ(審査員特別大賞)を受賞している。
もっと注目されても良いと思うのだけれど。。

映画の果たす役割として、社会的な問題提起がある。"あん"の主軸はこちらだろう。
もう一つは、人々の心の内側に問いかけ、心の旅をさせること。主人公の心の成長を描くことで、観る者にもそれを疑似体験させ、何かを感じ取らせる。
今作は、タイの映画監督アピチャッポン風、スピリチュアルな雰囲気を醸し出しつつ、私たちはどこから来たのか?どこへ行くのか?心にぽっかり開いた穴をどうすれば埋めることができるのか?
自ら向き合い、探し、見つけるプロセスの共有は、さながらセラピーのようだと思う。
河瀨監督らしいアプローチ。

認知症の老人シゲキさん役のうだしげきさんは、俳優ではなく町屋カフェまめすず・ちちろ店主で、奈良を拠点に文化活動をされている方。
筑紫哲也のような風貌のシゲキさんは、認知症であってもどこか知的な雰囲気を保っている。白い丸首シャツが全然似合わない笑

尾野真千子、河瀨監督に見出されたこの人がまたいい味出してるなぁ。。
ある理由から子どもを亡くした、グループホームの職員という役どころで、シゲキさんと同じく喪失感を抱えて、どこか虚しく生きている。

この二人が、森を彷徨いながら心の深い所で交流し、解放し、そしてそれぞれの世界へと。。

シゲキさんの奥さん・真子さんは、山深い森で遭難したのだろうか。
それとも自ら土に還ろうとしたのだろうか。

ガチンコの二人のやりとりが、時に激しく、時に切なく、胸に迫る。

生きるって何だろう?

生きてるって何だろう?

普段考えないことを、頭の中でグルグル考えてみる。

"私は生きてますか?"シゲキさんが問う。
"ご飯食べてますか?
ご飯食べてたら、生きてるってことです。"
僧侶が答える。

生きてるのに生きてる実感がない、とは?



"こうしゃなあかんてこと、ないから"
柔らかい関西弁でこう言われたら、ホンマくにゃーっとなるなぁ。。

魔法の言葉かも。

グループホームの主宰者・和歌子役、渡辺真起子の存在感。

思うようにならんでも、失意のどん底に沈んだとしても、人生何とかなる!

茶畑を走り回るシゲキさんと真千子の姿が、忘れられない。



緑が美しく、生活の音がたくさん聴こえる作品だった。

ドキュメンタリーっぽいタッチだったなぁ。


今度また、観返したらどんなことを感じるだろうか。。


きっと、いつか、また観る。



MEMO

殯(もがり)とは、
敬う人の死を惜しみ、偲ぶ時間のこと。
また、その場所の意。
語源に"喪あがり"
→喪があけるの意、か。
あーさん

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