優しいアロエ

アンタッチャブルの優しいアロエのレビュー・感想・評価

アンタッチャブル(1987年製作の映画)
4.3
〈黒歴史をどう描くか〉

 20世紀初頭のアメリカは、悪名高き禁酒法時代である。時同じくして、シカゴのアル・カポネを筆頭にアメリカンマフィアが独自の帝国を築きはじめた。アメリカンマフィアを国家体制への反発の形態ととるならば、禁酒法とアル・カポネはそのシンボルと云えるかもしれない。たとえば、S・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』も、禁酒法時代を背景にギャングとして成り上がった男の話であった。

 しかし本作は、ギャングではなく、それを追う側である役人と警察にフォーカスが当たる。“Untouchable” たるアル・カポネを検挙するための捜査劇だ。役人が主人公だからか、劇伴はOPのサスペンス調なものだけでなく、壮大で愛国的なものが多い。これらを手掛けるのはエンニオ・モリコーネだ。

 なにも本作は禁酒法時代を肯定しているわけではない。ただ全面否定もしていない。禁酒法に違和感を覚えながらも国のやり方に従い、反逆者と戦うことを誇りとした人物たちを讃えているのだ。

 また、エンニオ・モリコーネが起用された理由が次第に明らかになる。すなわち、マカロニ・ウエスタンへの意識だ。本作には銃撃戦が随所に見られるが、そこでデ・パルマは、マカロニ・ウエスタンのような “間の使い方” をしている。漢たちがジーっと睨み合い、細くなった目にカメラが寄る。彼らにしかわからない “ここぞという瞬間” に勝負はつく。このウエスタン系譜の決闘は、デ・パルマお得意のスローモーションとも非常に相性がいい。ベビーカーのシーンは必見だ。

 マカロニ・ウエスタンの旗手S・レオーネすら、禁酒法とギャングの時代を手掛けるときにはその粋な演出を抑え、荘厳で郷愁的な作品に仕上げたのに、その題材をデ・パルマが撮るとウエスタンのテイストになってしまうというのが面白い。

 本作が描いたアメリカの黒歴史は、ギャングが政治や警官と結びついていたりもしたため、決して「国家体制vsギャング」という単純な構造だったわけではない。しかし、そんな複雑な状況のなか、血の流れる現場に立つ男たちは、己の正義を胸に戦い抜いたのであった。
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