優しいアロエ

シェルブールの雨傘の優しいアロエのレビュー・感想・評価

シェルブールの雨傘(1963年製作の映画)
3.8
〈カトリーヌ・ドヌーヴは笑わない〉

 ON/OFFの切り替えがないタイプのミュージカル映画がこの時代にもうあったのかと一驚。ヌーヴェルヴァーグの登場人物に特有の軽やかさ、余裕の装い、および本心をはぐらかすような性格が、このオペラ調の会話形式により見事再現されている。

 しかし、ドヌーヴが笑ってくれない。ゴダール版ミュージカル『女は女である』に引き続き、本作でもミシェル・ルグランの甘美な音楽とベルナール・エヴァンの鮮明な色彩がすばらしいが、表情が乏しくどこか陰鬱なドヌーヴがこの世界に応えているとは思えない。この女優は『反撥』『昼顔』のようにジメッとした役柄のほうがどうも似合う。

 また、これはミュージカルそのものの性質に思うが、自分の慣れ親しんだ言語でないとイマイチ楽しみがたい。私にとっては日本語か英語でなければ、字幕に集中せざるを得ず、ミュージカルの隠れた醍醐味と云える言語の聴覚的な豊かさやクセにまで意識が及ばない。いや、意識できても認識ができないのである。第二、第三外国語を基礎だけでも習得することは映画鑑賞に大いに活きるだろうと常日頃思っているが、殊にミュージカルはそうかもしれない。

 また、雨傘をモチーフとした映画なのに幕引きが降雪であることにも違和感を覚えたが、雨傘に象徴された二人のメモワールが完全に終焉を迎えたことを突きつけるものとしてここは加点評価しておこう。
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