優しいアロエ

ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画の優しいアロエのレビュー・感想・評価

3.5
〈爆破すら見せないライヒャルトの異常な素っ気なさ〉

 やはりオレゴンを舞台に据えたケリー・ライヒャルト長編第6作。しかしながら、革新派のエコロジストがダム爆破テロを引き起こすという大仰な物語となっており、そもそも旅や彷徨を扱わない時点でライヒャルト長編としては異例の事態である。

 それでもライヒャルトがミニマルな視点を失うことはなかった。映画的スペクタクルやリアリズムなどの観点からすれば本来映すべきである“ダム爆破の瞬間”をも割愛することで、ライヒャルトはダム爆破テロを「社会的事件」へと抽象化し(予算の都合もあったのかもしれない)、犯罪者の普遍的な事後心理に早々と力点を置いてみせた。

 また、ほとんど何も見通せない真っ暗闇のシーンと、無機質な明るさを持つ日中のシーンが交互に並べられる。ジェシー・アイゼンバーグ扮するテロリストが抱く“どこまで真実が知れ渡っているのか”という底知れない恐怖や猜疑心がそこに浮かび上がるようだ。

 しかし、これまでの作品に比べるとキレが落ちているのは否めない。フレームに映っているもの以外への想像が掻き立てられなかった。これまでライヒャルトは主人公の周縁に社会状況を巧みに潜ませてきた。 『Old Joy』では車中で流れるラジオの政治番組から9.11後の保守政権の台頭を仄かし、『ウェンディ&ルーシー』ではリーマンショック後の失業者の蔓延が影を落とし、『Meek’s Cutoff』では西部開拓時代の熱気の裏で見過ごされがちな無益な時間と弱者の視点を炙り出していた。そういったものが本作にはなく、味気ない心理ドラマという印象は拭えない。
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