おむぼ

アトランタ・ブギ ATLANTA BOOGIEのおむぼのレビュー・感想・評価

3.6
やくざな雰囲気の女主人公や多国籍な不法滞在者の住まう民泊、地味に町田町蔵っぽい役の塚本晋也、運動会といった『ロビンソンの庭』の序盤でも見られた要素を拡大して、『熊楠』でコネを持ったアミューズの所属芸能人を主演とカメオ出演にこれでもかというぐらい多くキャスティングしたり、古田新太演じる変態成金野郎としか表現できないようなわかりやすい悪役をぶち込んだりと、エンタメ感が強く一見、絵面に華のある印象の山本政志監督の映画である。

考えてみたら、本業が役者ではない人を劇中で魅力的に見せるのが上手い監督であることをアミューズによって良く活かされている。
鈴木彩子とサザンオールスターズのパーカッションの野沢秀行は、イメージそのまんまの飄々とした感じでしっくりくるキャラクターだった。

そういった豪華なキャストにスポットライトが当たっているように感じつつも、やっぱり旨みに感じるのはアングラな群集劇であり、ポスターには全くクレジットされていないような、撮影地・横浜の伊勢佐木町あたりでスカウトしたであろう大勢の外国人の役者のシーンのほうが印象に残っている。
ジョギングする主人公たちを徐々に大勢の外国人が、「金はどうなった」と言いながら追いかけていくラストシーンも伊勢佐木町・日ノ出町あたりのイメージを活かした下町の群集劇といった感じである。

K's cinemaで見逃し、横浜シネマリンで見られたのもなんだか運命的で良かった。

雰囲気としては横浜のそのあたりだが、実際の撮影地はそこからほんの少しだけみなとみらい寄りのあたりが大半である。
運動会会場を上から引いていくと、ごった煮の群衆とは対象的なそのあたりの再開発中の景色が映るのが寂しさを感じられて良かった。

基本的にはチワワ鍋(リードに繋がれたおかわりもあり)や、気の弱いアメリカ人に発破をかけたら「Fuck You! Fuck You!」とかけ声を発してランニングをしたり、ハードルを1つ跳ぶごとに「Shit.」「Bitch.」と常に何かを罵倒するキャラクターになったり、電通の社員が「デコレーションはどうでしょうか?」と成金に挨拶したり、玉入れで相手の玉が投げられた時に実弾入りのピストルで銃撃する台湾マフィアだとか、精力剤やら栄養ドリンクやらをしこたま混ぜたものを飲んだらハイになっちゃったやつの代わりにベン・ジョンソンが短距離走を走る…たった10秒ほどの走りにギャラが高くてもったいないからか、わざわざ何回もカットを割ってスローモーションにしているとか、時折ブラックなギャグコメディだが、運動会中に成金野郎の差し金で大量の警察官が外国人たちを不法滞在者とこじつけて一斉に取り押さえ、逮捕するシーンは直喩の表現であり、猛烈にきな臭く感じた。

そもそも劇中で流れるように描かれていたが、国境無き運動会を権力者が主催し、賭博で世界を巻き込み盛り上がっているのもおもしろおかしな話である。

この映画はアトランタオリンピックへの便乗だが、25年経って世間に訴えかけることは、よりタイムリーに感じるのが最も皮肉なことだと思った。
実は、今見るべき映画だとも思う。

ただし、そのあたりが観客にわかりやすく伝わるとは思わないし、伝わり過ぎたらたぶん痛々しくなるから、華やかな芸能人としょうもないギャグにこてこてに塗れているのが良いところだと思った。
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