噛む力がまるでない

チキ・チキ・バン・バンの噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

チキ・チキ・バン・バン(1968年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 イアン・フレミングが書いた唯一の童話を元にしたミュージカル映画である。

 1989年製作のソフト版だと子役二人の吹き替えを浪川大輔と坂本真綾が担当していてちょっと驚いた。個人的に子役時代の浪川と言えば、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のアル役が印象深いのだが、この頃の浪川のハイトーンは本当に奇跡的なものだと改めて感じる。ほかにも芸達者がたくさんそろっているので、吹き替え派にはとてもオススメだ。

 童話を元にしているだけあって荒唐無稽な内容なのだが、基本的にカラクタカス・ポッツ(ディック・ヴァン・ダイク)の作り話というていで構成されていて、そのへんをしっかり理解していないともう何が何やらわからなくなってくる。それにしても、映画の半分を妄想で固めて語るのだからものすごい勇気だなと思う。下手すると白ける演出になりかねないところを、魅力的なキャラクターたちとチキ・チキ・バン・バンのギミックで最後まで楽しく見られる。バルガリア国の悪党たちが実に愉快で、ボンバースト男爵(ゲルト・フレーベ)が夫人を何度も殺そうとする下りはあまりに酷くてかなり笑ってしまった(吹き替えの大塚周夫も超うまい)。
 ピクニックのあとポッツにはお菓子の契約が決まり、トルーリーにも気持ちを伝え、幸せが一気に訪れる。二人が乗ったチキ・チキ・バン・バンが空を飛ぶのはそんな絶頂の気分を表しながら、でも本当に飛んでるかもねみたいなロマンチックな余韻で終わるところがまたいい。相当のんきな映画だが、楽しい夢のような気分になることができるし、見終わったあとは「Chitty Chitty Bang Bang, we love you」と口ずさみたくなるはずだ。