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競輪上人行状記のドントのレビュー・感想・評価

競輪上人行状記(1963年製作の映画)
4.3
 1963年。久しぶりに魂を掴まれた。坊主をやっていた兄が死に、身体を悪くしている父親と兄嫁の住む寺を継がなくてはならない流れになった清く正しく生きようとしている教師。しかし貧困や薄汚れた世間に直面し疲弊。そこでふらりと入ったのが、競輪場……
 小沢昭一だし坊主が競輪にハマるなんてあらすじなので喜劇かと思いきやこれが重い苦しいつらいの三重苦ドラマ。教師をしていても坊主をしていても現実の壁にゴンゴンぶつかり心は血まみれ。そして壁を乗り越えるか回避するかしようとして頭をぶつけるのが博打でも熱々の鉄火場・競輪場ってんだからもう救いようがない。悲惨すぎてなんかもう半笑いである。
 それでもなお本作は「トラウマ映画」なぞではない。そんな所にとどまるタマではないのだ。苦難を突き抜けて真っ黒い奔流がほとばしるようなヤバい熱気、ドロついた人間の邪な生気に満ちていて首の後ろからクワッと血が頭に上ってくる。まさに博打のようなアブない高揚感がある。それまでしれっと流していた競輪の本編をクライマックスにガツンと持ってくるなんざもう、憎いですね。
 脚本の今村・大西コンビのおかげもあろうが、終始貧乏臭くて泥臭い世界観といい意味でせせこましい演出があまりに見事で、ここに貧相な顔(こらっ)の小沢がバッチリはまってしまう。驚くような
方向にゴロゴロ転がって落ちていく筋書きからの、終盤の謎の解放感までまぁ本当に見事な映画だった。あと何があっても競輪はやるまい、と思った。
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