「クレイジー・イングリッシュ」
本作は一九九九年にチャン・ユアンが監督した独自の英語勉強法“瘋狂英語”を掲げて中国全土を講演行脚する若き教師リー・ヤンの姿を追ったドキュメンタリーで、このたびVHSを購入して初鑑賞したがよくわからない映画だった。どちらかと言うと退屈だが、つまらなくもない。中学、高校で英語六年学んでも英語を話せない日本人必見と言う謳い文句で、当時アップリンクから公開されていた映画で、一応DVD化もされている。ロカルノ、トロント、釜山国際映画祭その他二十以上の国際映画祭で絶賛、爆笑、驚愕の三拍子揃って迎えられた映画で、これを見れば、あなたも英語が話せると言う宣伝がなされた中国映画である。とにかく主人公のエネルギッシュな活動を追いかけた本作は、恥を捨てて大きな声を出して、体全体を使って英語をマスターしようと言うパフォーマンスいっぱいのリー先生のユニークな講演は、北京大学、紫禁城、解放軍キャンプ、果ては万里の頂上まで我々にもなじみの中国の名所、旧跡を舞台に繰り広げられている。
カリスマと言う言葉が最もふさわしいリー先生に答える大観衆の圧倒的なパワー。アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国市場としか見ない国に英語を覚えて今度は中国人が進出するのだ、そして、金を儲けようと言う英語を覚える明確なモチベーションを中国人に植え付ける。中学、高校と六年間英語を学んでも自分の考えを英語で伝えられない日本人が第二公用語にするべきかどうかが話題になる二十一世紀初頭のプレッシャー映画だった。十二億人を巻き込んで中国大陸を駆け巡る疾風怒濤の英会話教育ムービーが見たい人はこの映画は間違いないだろう。とりわけ案外オーソドックスなドキュメンタリーだった。冒頭からリー先生の強烈なガラガラ声でクレイジーなんちゃらと全てにクレイジーをつけながらドアップでカメラに向かって拳を振り上げ歩く場面から始まるのだがすごい強烈なインパクトがある。
とりわけ体全体を使って大声でパフォーマンス色の強いリー先生が脳裏に焼きつく。インデペンデント映画の監督の長編二作目であり、熱狂的に盛り上がる老若男女たちはなんだか恐ろしく感じる。特に兵隊たちが万里の頂上を埋め尽くすロングショットは恐ろしいの一言。どうやらこの映画は中国政府にも容認されているようだが、日本批判も混じっているためだろう。とにもかくにもチャイニーズパワーのムーブメントを巻き起こしているような映画であり、何もかもが桁違いのぶっ飛んだ映画だった。また、英語教育と言う硬いテーマを扱っているにも関わらず、リズムがあり、エンターテイメント性に満ちた仕上がりになっている。ウルムチ自治区にもこのリー先生はやってくる。