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恐怖分子のHKのレビュー・感想・評価

恐怖分子(1986年製作の映画)
4.0
『クーリンチェ殺人事件』『ヤンヤン夏の思い出』などのエドワードヤン監督による台湾映画。キャストはコラ・ミャオ、リーリーチュン、チン・シーチェなどなど

カメラマンの青年がとある事件の現場を撮影する所から全てが始まる。事件に巻き込まれていた不良少女、そして課長昇進競争をしようとする医師と、小説家でいるその妻という一見交わらないような人々がある事件を発端に運命の歯車が狂い始める。

エドワードヤン版『ラルジャン』、ロベールブレッソンや後年の黒沢清のような、一見関係ない日常の一場面や自然音が不気味に観客の不安を煽りながら、まるで運命づけられたかのように登場人物がとある惨劇に巻き込まれていく。

一見関係ないような事件や事象がまるで数珠つなぎのように連鎖していくことによって最終的に悲惨な結末にたどり着いてしまう説話がすごい好き。それは社会の側面を押しながらも人間が二人いれば争いがおこってしまうようなディスコミュニケーションの結果起こりえるかもしれない。

しっかりとメロドラマ的な説話でそれぞれの人間の普遍的な清濁ある側面を描いて因果応報のように不条理を描いていたのが良かった。

何も悪い事をしていない医師の男が、奥さんに捨てられ、昇進競争にも敗れ全てを失ってしまって最後にやってしまう最後の所業などもやはりラルジャンだ。ドア越しに銃をぶっ放す演出はエドワードヤン特有のスタイルかも。

どのショットも絵画的な美しさを呈しながら、不気味に鳴り響く環境音が不安を煽る。また、所々ショットにも歪さとか不安を煽るのが出てくるし、奥さんが原稿に文字を書き殴るショットとかも良かった。ハネケっぽさが出てる感じ。

特にカメラマンが貼ったであろう壁に貼られた女の子の拡大写真が印象に残る。風にあおられて所々捲れてしまう所がホラー風味が効いていて良かった。

序盤の銃撃戦のを窓越しに映させるショットは絵画的な美しさと同時に残酷さも漂わせていて良かった。風にたなびくカーテンが美しいながら扇風機から流れるゴーっとした音は不穏を煽る。これぞブレッソン。

最終的に奥さんの書いた小説通りの結末になってしまうのが何とも言えない。破滅的なお医者さんのラストもすごい好き。見れて良かったと思います。
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