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少年と自転車のHKのレビュー・感想・評価

少年と自転車(2011年製作の映画)
3.8
『イゴールの約束』『ロゼッタ』などのダルデンヌ兄弟によるベルギー映画。キャストはセシル・ドゥ・フランス、トマ・ドレ、ジェレミー・レニエなどなど

唯一の肉親に捨てられ孤児院に預けられた少年がいた。彼は父親に会いたい衝動に駆られ職員の制止を振り切って父親がいたアパートにまで行ったが会えずにまた捕まることに、それを嫌がり逃げようとして抱きついた女性が、彼の事を思い彼が大切にしている自転車を取り返すのだが…

ダルデンヌ兄弟監督作品。序盤、いきなり少年が何かに追いつめられてるようにひたすら暴れて施設から脱出しようとする。ここで何か理不尽を受け入れられずに衝動的に激しく暴れ回る様子を収めるのは、『ロゼッタ』でもやっていた。

ひたすら、何かに迫られてそれを嫌がり暴れて何とか抜け出そうとする衝動をしっかりと収めるのはダルデンヌ兄弟は本当に得意ですよね。言葉なんかよりも、そこでの彼等の目線や態度などで知らぬ間にこっちも共感してしまうのはやはりトリュフォーあたりが得意にしていたリアリズムをしかりと成し遂げていて本当に素晴らしい。

今回の主人公の男の子はこれまでのダルデンヌ兄弟の映画に比べると、何の縁もない人にいきなり里親になってくれと言っちゃうように、ちょっとばかり我儘に見えてしまうのも、思春期故に起こってしまう無軌道さをしっかりと体現していて良かったですね。

ジェレミー・レニエが『ある子供』と同じくクズな父親役をやっている。しかし、『ある子供』と同じく貧困などが背景にあるがためにやってしまう愚行であるというのも考えると何とも言い難い。まあ、捨てるなら産むんじゃねえって言いたくなるんですがね。

『ある子供』では言及されなかった、捨てられてしまった子供目線というのをこの作品は全面に出していたような作品でしたね。だからこそ対比的に語れる側面も多いかもしれません。

ちゃんとした環境で育つことが出来なかったため、善悪の判断もできないまま優しくつけいる悪童の言いなりになったあげくに犯罪に手を染めてしまうというのも、何とも言えない展開。悪人っていうのは、本来的にはああいう優しさでつけいってくるんですよね。

そして、最後は悪い事をした結果は、必ず自分に帰ってくる因果関係で主人公を突き放すようなラスト。その前にしっかりと示談で終わった後にあんな結末を持ってくるというのも、どろどろとした憎悪に駆られた人間の哀れな姿が見てみたい自分としてはたまりませんでしたね。

集金人のお父さんも結局止められなかったし、こういう所で許す赦さないの贖罪のテーマではどっちが良いのかも見せないところもダルデンヌ兄弟はしっかり見せてきて素晴らしいと思いましたね。

いずれにしても見れて良かったと思います。シリルとサマンサが自転車で並走するシークエンスはやはり美しい。『イゴールの約束』とかだとバイクだけど、自転車だと不安定だからこそ青春の危うさが強調されていいかも。
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