フラハティ

ロスト・イン・トランスレーションのフラハティのレビュー・感想・評価

3.6
トーキョーとは不思議な街だ。


『ヴァージン・スーサイズ』で注目を浴びたソフィア・コッポラの二作目。
東京にやってきた二人の異国人。
一人は俳優。
一人は結婚したばかりの女性。
たまたま同じホテルに泊まっている二人は、距離を縮める。


トーキョーという街には人が大勢いるが、それは個人の集まりであり、何らかの因果関係は感じられない。
通勤には多くのスーツ姿の人間が押し込まれ、テレビでは変わった人たちが話している。
日本語ではまったく何を話しているかわからないが、きっと私より孤独ではないだろう。

自分というものは存在しているけれど、存在は必要へと繋がっているのか?というのはメインテーマでもあったり。
外国という必然的に距離が生まれる世界で、たったひとり投げ込まれたようで、何をしていても空虚に思える。
この一瞬一瞬は記憶に残り続けると同時に、儚く都会の喧騒に紛れていくが、いつの間にか自己存在を否定したくなり、悲しみを感じる。
自国に戻れば再び繋がりを感じられるけれど、今この瞬間、私のことを必要としてくれている人は存在しているんだろうか?


本作の魅力は何と言っても日本の描写。
孤独というメインテーマをより深めるには、異国の地である日本というのはうってつけなんだろう。
色んな文化が混ざって、色んな人がいて、眠らない街。
でも誰もが関わり合えていない気がする。

この日本の描きに否定的な意見もあったりするけど、個人的にはいいんじゃないかなって思う。
田舎者からしたらトーキョーって不思議な街だと思うもん。
流行の最先端とか若者の街とか、自分には結構遠い存在だし、あんまり触れることはない。
そういう僕も東京を偏見の塊で見ているんだけどね。

ほぼ何も起こることはない繊細さがあるので好みは分かれるけど、嫌いじゃない。
でも言葉で語る作品でもなく、刺さるようなシーンが少なかったのも事実。
ベッドで本音で語るシーンは好きなんだけど、そこに至るまでがスローペースかなって感じ。


自国でいるならば関わるはずのなかった二人。
そんな二人が微妙に近づき、恋愛関係にまではいかない。
そんな瞬間がすごく素敵で、お互いの一瞬でも支えになり、理解者にもなるっていうのはいいよね。
この先の人生で出会うことはないかもしれないけれど、一瞬でも私の人生に現れた運命の人であるのかもしれない。

人と人との奇妙な繋がりが、東京という不思議な街を舞台に、お互いの人生に深く刻まれる。
長期的に見れば一瞬の出会いだけど、人生を形成する重要な人物に出会えた喜びは、お互いに感じているはず。
相互理解は言葉も必要だが、それは絶対条件ではないのかも。
二人の関係も、二人の気持ちも『ロスト・イン・トランスレーション(翻訳は失われる)』ってことか。粋なタイトル。
フラハティ

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