てつこてつ

フェリーニのアマルコルドのてつこてつのレビュー・感想・評価

フェリーニのアマルコルド(1974年製作の映画)
4.2
原則、映画を鑑賞する際はなるべく事前情報を仕入れず見たほうが楽しめると思っているが、フェリーニ監督の全盛期の作品群については、ある程度下調べして見るのも有りだと納得した作品。

この作品は1930年代に多感な思春期を過ごしたフェリーニの生まれ故郷に対する自身の回想録なんだね。とすれば主人公の少年=フェリーニとなる訳だが、それこそ「サテリコン日誌」で登場した少年時代のフェリーニのモノクロ写真とは似ても似つかぬ栗色の髪をしたハンサムな少年が演じているのはご愛敬。

作風も思いっきり寓話調には振ってはおらず、少年(フェリーニ)の家族の物語が主軸でしっかり描かれている。典型的なイタリアの母親像そのものの母親、ムッソリーニ台頭で吹き荒れるファシズムの風潮に反発する父親・・。

そう、他の作品ではカトリックや性道徳に対しては非常に大胆でチャレンジングな描写を描くフェリーニが政治やイデオロギーに触れるシーンを描くってのはとても珍しい。しかも父親がリンチされるシーンは全くのコミカルな要素も無いので、少年時代のフェリーニに強く刻まれた体験だったのであろうな。

精神疾患を抱える叔父との家族でのドラブ途中に叔父が高い木に登ってしまい降りてこない下りを比較的長い尺を取って描いているのも、フェリーニ作品らしくはないが、こういった体験は確かにいつまでも記憶に残るものだと共感。

それでも、登場キャラクターの夢想・寓話として描かれるアラブの大物が街を訪れた際の28人のエキゾチックな美女が勢揃いするシーンや、大型客船が海上に現れるシーンなんかは、まさにフェリーニならではの演出。
ニーノ・ロータの音楽が作品を引き立て、これまた素晴らしい。

終盤のタバコ屋の女性のシーンは凄く印象に残るし、何らかの聖人のポスターを背景に行われる行為の演出は影の使い方などとても凝っている。
フェリーニが豊満で体格が良い女性・・言い方は悪いが大女を色んな作品に登場させるのは、やはり少年時代のこの思い出があるからなんだろうな。

冒頭とエンディングが綺麗に結びつく話の流れも、フェリーニにしては珍しい。レンタルDVDではあったが4K修復板ということで映像も美しく、何よりもフェリーニ監督の映画製作の原点が見えたのが素直に嬉しい。
これからフェリーニ作品をご覧になる方には、最初の一本としてもお勧めしたい。
てつこてつ

てつこてつ