Oto

東京ゴッドファーザーズのOtoのレビュー・感想・評価

東京ゴッドファーザーズ(2003年製作の映画)
3.8
黒澤明『天国と地獄』のような複数のジャンルが組み合わさったスペクタクル感覚。RPGのような新喜劇のようなテンポのよさ。
前半は日常劇(映画)として観ていたけど、後半はルパンやしんちゃん劇場版のような予想の斜め上の展開で、やはりアニメだと思った。どちらにしても『パプリカ』のようなファンタジーとは対極にあるし幅が広い...。

「あー!あのときのあの人!」みたいな偶然の出会いが続いていく「わらしべ長者」的物語なので、これを実写でやるとかなりわざとらしいご都合主義なドラマに見えると思うけど、アニメだからこそ成立する物語になっている。予算詰めばハリウッドでも撮れそうだけど、それだとこの面白さは消えてしまうはず。
よく「ドラマに魔法は1つまで」と言われるけど、1つどころじゃないし、実写で赤ちゃん喋らせたらみんなドン引きすると思う。だけど息が切れてジェスチャーでしか話せないのとか、表情や仕草からリアルな感情が伝わってきて思わず笑ってしまう。

ぎりぎりのリアリティを保っているのは、彼ら4人と社会との接点をちゃんと探っているからというのもあるだろう。ホームレスは食料に困るとお墓を漁るのか〜とか、電車に乗るだけでこんなに白い目で周りから見られるのか〜とか、保険証ないとこんなに大変なのか〜とか、逆の立場でみたときに学びが多い。
清子の存在によって結成された「擬似家族」ものと言える(リビングで回想から仲間たちに切り替わるシーンすごくよかった)けど、全員の個性が際立っていると同時に、それぞれ違った親子に関する問題を抱えていて、それこそ奇跡のような偶然がいくつも重なって(家庭、学校、会社...)、自分はいまこうして生きていられるのかもしれないと思った。子は親を選べないとは言うけれど、自分と異なる人を愛して支え合って生きれたらいいね...。

「泣いた赤鬼」の話は腑に落ちない部分もあった。ハナの言動は、相手のことを思って自分が犠牲になるというのとは微妙に違うところがあるような気がして、本当のことを伝えて二人の絆を深めてあげるという意図よりは、ミユキの言うように自分のためにやったことに見えたし、ギンへの不満が溜まっているにしても恩を仇で返しているように見えてしまったので、すごく好きなキャラだけに辛かった。好きで嘘をついて、独り身の競輪選手だと言っていたとは思えないのはわかっているだろうし、信じてたのに!っていう夫へ愛情のような気持ちの現れなんだろうと思う。

Opの景観は圧巻だし、クレジットの見せ方にもアニメやスタッフへの愛が感じられてすごくいい。宝くじの回収もよかったけど、奇跡の子である清子がいなくなった以上、持たざる者であるギンがきづくことはないんだろうな〜とか思ってしまった。

それでも名前をつけるという結末が素晴らしいと思うのは、生きていたって意味がないと思ってしまうような彼らが世の中に残せる爪痕だからだろうと思う。『シンエヴァ』でも綾波がシンジに名前をつけて欲しいと望むシーンが感動的だったけれど、自分に名前をつけてほしい/その人に名前をつけたいという気持ちは、究極の愛の形の一つだと思うし、コピーライターっていい仕事だな〜と思ったりした。ポケモンにおける姓名判断師のような仕事ってひとつ題材としてあるかも。
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