レオピン

野獣刑事(デカ)のレオピンのレビュー・感想・評価

野獣刑事(デカ)(1982年製作の映画)
4.2
刑事〈デカ〉は通り魔を追い、刑務所〈ムショ〉帰りは またシャブに狂い、気のいい女は ろくでなしを愛しつづけた……。

救いがないのが救い
脚本の神波史男には当初『クレイマー、クレイマー』の刑事版をという注文だったそう。

ある凄惨な通り魔事件が起こるが事件としては後ろに退いており、いしだあゆみを挟み出所した泉谷とダーティー刑事の緒形、そして子どもの4人の生活が中心に描かれる。

オープニングに痺れる。曲にのせてロングコートを羽織ったオールバックの緒形拳が大股で大阪の街を歩く。船に乗りたこ焼きを喰いそのゴミを海に投げ捨てる。これだけでこのおっさんのにおいが伝わってくる。

オールロケの感じは香港ニューウェイブの雰囲気。九龍城のような殺気を放つあいりん地区にはさすがに撮影隊を入れることはできずに隠し撮り。
80年代なのにまだ町全体に殺伐さが残っている。関西だからか。だが人々の生活を切りとってそれが汚く感じないというのは、よほど上手く撮られているせいだろう。

とにかく映像がいい。アパートの撮影はイントレを組んで外から狙った。あの狭い空間をいかすさまざまな工夫。何を撮るかよりもどう撮るか。己に枷をはめてその上で戦うスタイル。

警察では署長の藤田まこと以下、遠藤太津朗、成田三樹夫といったそうそうたる面子がしゃっちょこばっていたが、役者のリアリティでいったら泉谷が圧倒的。捜査会議はなぜか道場で行われ、刑事たちが床に座っていたのがおかしい。 

大滝刑事は職権乱用、袖の下、なんでもありの今宮署きってのバッドルーテナント。小林薫をしたがえて被害者の短大生が勤めていた風俗店を聞き込む。昼はノーパン喫茶。夜はコールガール。いかにも大阪な店が出てくる。乳丸出しで敬語で接客をする女性。バックにBOROがかかっていた。

情報提供の見返りに記者に焼肉をおごらせご満悦。強面だが反面子供には優しい。レバニラの皿を放り投げられても大声で叱るわけでもなく淡々と皿に戻す。子供心にこういうおっちゃんはなんか怖い。。

時代の風俗描写がほんと素晴らしい。『殺しの烙印』もモノの力が凄かったが、この映画も中々吸引力がある。82年ってもうちょっと小奇麗だったと思うがあんな感じか。緑の冷蔵庫とか卓上のソースとか小道具が懐かしい。

取調室で益岡徹を痛めつける暴力は『県警対組織暴力』に並ぶ。下品ワード炸裂、お前インポか。まさに野獣。オス丸出しで恵子を求めるが首筋に微かなシャブの匂いををかぎわける。

再びシャブに手を出したとしやん。遠くの火事を見つめる泉谷しげる。
いやー シャブには火事が一番やなぁ・・・

あの火事は偶然伊丹空港で起きたものを即座にシナリオを書き換えてカメラを回したという。
キマったときの鋭い目つき。狭いアパートで大暴れして路上に飛び出していくが、川俣軍司の姿を観客はまだ憶えていただろうからこれは迫力だ。TVまで2階の窓から放り投げていた。

一見普通の住宅街でシャブ中が暴れ、カーチェイスがはじまり人が撃たれる。ここは日本か。梅田のカーチェイスはゲリラ撮影。無線が効果的だった。逃走の果て、造成地の新興住宅地に立て篭もったとしやん。

一度だけ、緒形と泉谷が居酒屋で酒を酌み交わすシーンがあった。会話はアドリブに見えるが早々に崩れ気味でクダを巻き始める大滝。偶然金貸しの蟹江に見つかってしまいヤクザ相手の喧嘩になったが、帰り道でかいがいしく大滝を介抱する阪上だった。

あのシーンがあるだけに二人の対決はやるせないが、大滝の無謀な行動が恵子を死なせたことは事実だ。恵子の死で幕でもよかったがラスト20分のチェイスも良かった。恵子の死を阪上がすんなり受け入れられるはずがない。世の中一筋縄ではいかんのだ。行く所まで行かないと止まらない。すみませんすみませんと言いながら無関係の人間を射殺する阪上にはもはやまったく同情の余地はなかった。

恵子というどうしようもなく悲しい女をいしだあゆみが熱演。なぁアンターって呼ぶときの彼女の声。子供と安心して生活が出来ればそれだけでいいというどこにでもいる普通の女性だ。最後の夜、稔をドラえもんのように押入れに投げ入れて月明かりの中で大滝と結ばれた。

停職になった大滝は恵子の遺骨を持って部屋に帰ってくる。稔と二人でカレーを食べるところはクレイマークレイマーだったがちょっとセンチすぎてあかん。。

あのかわいくないガキ稔。でも今や見ることの少なくなってしまったあの子供らしい子供がちょっとだけ希望だったりする。

恵子が仕事へ出かけ大滝と一緒の晩、台所でマジンガーZの再放送を食い入るように見ていた。冷蔵庫から取り出したのは関西圏でしか売っていないというあの「ポールウインナー」か。そだ、机の上には見たことのないガンダムのポスターが飾ってあった。彼の反抗的Gジャンスタイルはアムロの影響か。

最後、稔の帽子は近鉄の帽子から普通の帽子に変わっていたが、相変わらず万引きを繰り返している。あいつは一人でやっていけるのか。あの後おっちゃんと仲直りできるのか。

ま、元気に生きてるだけで十分だ。「自分なりのやり方で」と裕也の声が優しく響いた。

⇒撮影:仙元誠三 脚本:神波史男

⇒主題歌 大野轟二「泳ぐ人」
⇒エンディング 内田裕也「ROLLING ON THE ROAD」

⇒ボロアパート映画ベスト級
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