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悪魔のいけにえのBigsのネタバレレビュー・内容・結末

悪魔のいけにえ(1974年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


久しぶりに見返した。

やはり古典として残るのも納得の素晴らしさ。
中盤までの繊細で生々しい描写の積み重ねによる不穏さや居心地悪さ。一線を超えてからの常軌を逸した展開の数々。
本作の影響を受けたフォロワー作品は山ほどあるけどやはりそれらと一線を画すような格調高さを感じる。BGMがなく直接的な残酷描写も抑えめで、ドキュメントタッチだからこそ真に迫る。

冒頭の、茹だるような暑さの中で見知らぬ土地での違和感や不穏さがじわりと効いてくる。きなくさいニュース、暴力性をも感じさせるトラック、外で飲んだくれるカウボーイハットの男たち、何か異様な笑い声、転がるアルマジロ。そこで出会うヒッチハイカー、一見して変だが、徐々に明らかになる奇妙さ。ガソリンスタンドの気さくな男、そいつの動きに合わせて車を洗う謎の男。ソーヤー家を訪ねると、家の前に歯が落ちていたり。そして、レザーフェイスとの出会い。あの一瞬の登場がかなりショッキング。ハンマーで殴られたときの痙攣のリアクションや、重い扉も印象深い。チェーンソーとフックといった本シリーズを代表するアイテムも登場。多くの訪問者に動揺するレザーフェイスの姿を捉えたショットも良い、作品としての凄みに繋がってる。
家の前に発電機があって、周囲のインフラと隔絶されて自家発電してるというのが、何か一般の社会や倫理観とは乖離した存在であることを強調するようだ。発電機にしてもチェーンソーにしても、テクノロジーではあるんだけど、一昔前のものでどちらかというと野蛮で剥き出しの暴力性も感じる。
ソーヤー一家のターンになってからは、笑っちゃうような異常さや下衆さ、愚かさだからこそやはりまた怖さに行き着くようだった。殺しを楽しむようなヒッチハイカーやレザーフェイスに対して、あまり好まない長男という、異常さのグラデーションも面白い。じい様は生きてるのかという驚き。椅子や食卓とかいちいち気持ち悪い装飾なのもすごい。
ラストの朝焼けの中呻くレザーフェイスの姿は何か荘厳ささえあった。

トビーフーパーはテキサス出身で、やはり自身が見たテキサスの光景が活かされてるのだろうか。他の地域とは切り離され、独自の世界が形成されるような状況は大なり小なりどんな土地にもあるような気がして、それを内側から見てきたからこその説得力になってると思う。

ただ、映画としては素晴らしいのだけれど、例えばレザーフェイスは正常な善悪の判断ができるような状態になさそうで、ともすると「頭のおかしい人間が怖い」、「閉鎖的な田舎が怖い」という短絡的な偏見にも陥りそうで、なかなか難しいところではある。ただ映画内ではどこまで心神喪失状態なのかはわからず、しかも一家の中で人によって差異もありそうで、一概に言えないところもあり、色んな物を含めて世界の不条理を体現しているようにも思う。見方によって、世界には理解不能な存在が居るとも言えるし、わからぬまま衝動的に人を殺める者もいれば明らかに確信犯的に下衆な欲望で罪を犯す者も居る。逆の立場では理解されないからこその孤立でもあるし。
ホラー映画だからと済ませられないような生々しさが、この映画には宿っているように思う。
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