あなぐらむ

銀座の恋の物語のあなぐらむのレビュー・感想・評価

銀座の恋の物語(1962年製作の映画)
4.3
(竹芝・SHAKOBAさん主催の「SHAKOBAシネマ」で再鑑賞)
裕次郎+ルリ子の鉄壁コンビの歌謡映画。だがそこに終わらず、華やかな銀座の街の表裏に若者の夢と挫折(ジェリー藤尾が体現)を重ね、更に愛する気持ちを真っ直ぐに描く好編に仕上がっている。言ってしまえばとても生真面目な映画。賢者の贈り物が織り込まれ、そこにあの歌詞がキーとなる筋立ては見事。ルリ子の可憐さが際立つ。
山田信夫と熊井啓のシナリオは伏線の張り方、シーンの反復、音楽のリフレインで紡いでいく作劇が立体的で飽きさせない。これがお披露目となった日活銀座オープンセットとロケの合いも良く、「東京映画地図」で取り上げて欲しい一作だ。
江利チエミがジャズバーで歌うシーンもとても楽しい(実は婦人警官!)。裕次郎はこういった、夢を追う不器用な若者が本当によく似合う。ジャンルを問わず彼主演の作品は、この映画で描かれる「失ったものを取り戻す為にあがく人」の物語だ。
お針子と言ってもピンと来ないとは思うが、この頃は銀座に洋装店が多く、地方出身者が働いていた。眼鏡モードの和泉雅子はまだ出始めの頃。
ヒロイン・浅丘ルリ子が銀座のネオンの灯りに、不意に東京大空襲の光景をフラッシュバックさせて恐れるというシーンがある。熊井啓が入れたと思っていたのだが「やくざ先生」を見てこれは山田信夫が入れたのだと思い直した。このシークエンスに、高度経済成長が「戦後」と地続きだという事が示されている。
今は路面店も多くきらびやかな銀座は、1962年に頃は若い人が憧れる街でありながら、まだまだ江戸っ子気質も残る場所として多くの映画にその様が刻まれている。中央区だもん。物語の後半、焼き芋屋のおばちゃん・清川虹子と、たこ焼き屋の高品格 がルリ子を心配してやってくれるなど、人情ものの味わいもある。お高くとまらない、ヒューマンな銀座の小さな恋の物語。