ひろぽん

別離のひろぽんのレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
3.7
イランの首都テヘランを舞台に離婚を決めた夫婦はその周囲の人間を巻き込んで思いもよらない複雑な事件に発展していく物語。

サスペンス要素も含みながら現代のイランが抱える社会問題を浮き彫りにして描いている本作。


冒頭の離婚裁判での夫婦の離婚理由が支離滅裂で、この国には将来が無いから娘のテルメーために海外に移住したいという妻・シミンと、アルツハイマーの父の介護があるから見捨てて国を出るわけにはいかないという夫・ナデルの、海外移住するかしないかで離婚するという理解し難い内容。

その後に夫の許可がないと海外移住できないと分かり、国内に残る事になっても別居して離婚の道を選ぶ方向で進む。娘のために海外移住したいと言っていたシミンの発言自体が怪しくなってくる…。ただ夫と別れたかっただけじゃねぇかと思いながら観ていた。

イスラム教の女性は夫に従順だという偏見すらも序盤からぶっ飛ばしてくる演出には驚いた。どこの国にもいる手に負えない女性はいるのだと思う。この映画はそんなトラブルメーカーの女性たちによって人生を狂わされた人たちの物語。

そんな酷い女性シミン以上にやばい家政婦の女性・ラジエー。真面目で信仰心が強い一方で、自尊心が強い上に判断力に欠けるタイプで、アルツハイマーの老人をベッドに縛り付け仕事中に外出してしまうような救いようのない奇行。

ナデルが家に着くと縛り付けられた父親は床に倒れたまま意識を失い命の危機に。この件件とラジエーの流産問題が今回の2組の家族の争点に繋がる。

一つの事実を巡り、介護問題、貧困問題、宗教観、階級の違い、法律、家族の名誉、私利私欲、嘘などが複雑に絡み合い真実が明かされていく。裁判では平気で嘘をつけるのに、イスラム教の聖典コーランの前では嘘をつけないという信仰心の強さには驚きを隠せないほど衝撃的だった。

普段馴染みのないイランという国の宗教観や社会問題、文化、価値観について知ることが出来て良かった。何よりも身勝手な大人たちの行動に振り回される何の罪もない両家の子どもたちが本当に可哀想で切なかった。中学生という多感な時期にこんな悲惨な事が起こるテルメーの気持ちを考えると辛い。

あくまでも問題提起はするが、その答えを完全に視聴者に委ね考えさせる監督の演出は凄い。展開として盛り上がる部分はないけれど見入ってしまう。それぞれの役者の迫真の演技がとても素晴らしかった。
ひろぽん

ひろぽん