むらむら

別離のむらむらのレビュー・感想・評価

別離(2011年製作の映画)
5.0
海外移住したい妻シミンと、イランに残りたい旦那ナデルが、中学生の娘テルメ(監督の実娘が熱演)の親権争いの離婚調停中、という場面から、映画は始まる。

爺ちゃんの介護のため、旦那は家政婦ラジエーを雇用。家政婦は妊婦で、介護の最中、小学生の娘と無断外出。旦那が急遽帰宅すると、爺ちゃんは瀕死状態。ブチ切れた旦那は家政婦に詰め寄る。さらには家政婦の無職の旦那も登場して裁判沙汰になり、「家政婦はどーしてたんじゃーい」という裁判に突入していく。

つまりは「家政婦は見た!」ならぬ「家政婦を見た!」ジャンルの作品(いま適当に名付けました)。

地味な映画なんだけど、実は物語中に、普遍的な問題が色々と織り込んであるんだよね。

ナデル一家の持つ現代的な価値観と、無職の旦那を持つ家政婦ラジエーの崇拝する伝統的な価値観。これを主たる対立軸にしながら、宗教や格差、女性の地位などが描かれる。

日本人の俺からすると、家政婦の宗教的価値観への絶対服従は、受け入れづらい部分もある。ただ、急速に発展するイラン、中東の姿をよく映していると思う。

イランでの原題は「ナデル(旦那)のシミン(妻)からの別離」。英語と日本語は単に「別離」で、さまざまな考え方の乖離も想像させる良いタイトル。少なくとも「レイダース 失われたゾンビ」「ランボー者」「26世紀青年 バカたち」といったやる気のない邦題より、よっぽど良い。ちなみに「評決のとき」とか「告発の行方」ってタイトルでも、別に違和感の生じない内容だったなー。

関係ないけど、家政婦の旦那の「無職で時間がたっぷりあるから、ゴネられるだけゴネたるでー」っていう態度の人、うちの実家(福岡・筑豊)の市役所の窓口でメッチャ見たことある。お前、もしイランにパチンコあったら、絶対に通ってるよね!?ってキャラクターで、好演でした。

力強い物語に加え、結末も余韻の残る感じで、自分の中で、長く記憶に残りそうな作品です。
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