馬井太郎

疑惑の夜の馬井太郎のレビュー・感想・評価

疑惑の夜(1959年製作の映画)
3.0
映画の撮影をやっていて、そこに高倉健がいるらしい、という噂を聞いて、当時、悪ガキだった私は、自転車を飛ばしてその場所に駆けつけた。いた、いるではないか、高倉健が。あの独特な歩きに速度を合わせて、私は、5メートルくらいの間隔を保って、ほんの1、2分、歩くことが出来た。すでに確乎たる人気俳優になっていたのに、見物人はまばらだったことが幸いした。この時の映画が「疑惑の夜」だったのである。
撮影に使われる車の窓から顔を出した佐久間良子の美しさは、子供心にも強烈な印象を与えてくれた。こんな美人がいるとは信じられない、と言ったら、オーバー過ぎて、本人が聞いたら、穴に入りたくなるかもしれない。それくらいなもので、いまでも、はっきり憶えている。
ほんのわずかだが、たぶん、初めてで最後かもしれない、高倉健のベッドシーンがある。この相方が、小宮光江という女優であった。男噂の多い女性で、この映画の後、自室のベッドで遺体になって発見された。ガス栓が開いたままで、鉛筆書きの遺書があったことから、自殺とされた。
ガスストーブが点火しなかったことに気がつかなかった過失死ではないか、との見方もあったが、本当のことはわからない。これこそ、「疑惑の夜」であったろう。