馬井太郎

日本のいちばん長い日の馬井太郎のレビュー・感想・評価

日本のいちばん長い日(2015年製作の映画)
4.2
皇居の敷地内に、御前会議などに使われる地下壕が発見され、さらに、1945年8月15日正午の玉音放送用の録音は、2テイクあった、という。これはつい最近新聞・テレビ報道された記事である。これが、本当に戦後70年にして、初めて発見されたこととは、わたくしには、とうてい信じられない事実である。皇居・皇室とは、いまだ広大な知られざる開拓地が残されていたように思えてくる。
その発見にこの映画が引き金になったとしたら、それは素晴らしいことであるが、逆に上映されなかったら、もしかしたら、永遠に封印されたままだったかもしれない。
その後どうなったかの報道を聞かないが、「触らぬ神に祟りなし」である。

戦争ドキュメンタリーもののなかで、その終結だけに的を絞った映画は、他にほとんど思いつかない。(小生だけが、知らないのだろう。ご存知の方が居られたら、ぜひ、ご教示願いたい)
上映時間136分、既にわかっている結末と、撮影表現制約が多かったであろう1967年版と比較評価されるという宿命は、相当な重さであったろうと思われる。

空(そら)の部分を多くした逆光シーンに、あえてレフ板を使わず、薄暗いままでの顔にとどめ、俳優の演技とセリフとに賭けた。鮮やかな色彩を抑え、ダーク調にしたのも、成功した。もうひとつ、何といっても、カット割りがいい。アップ後の編集に、相当苦労されたことと思う。
メガネは、当時、高価であったのだろう、かけていたのは天皇しか記憶にないが、わたしの見損ないだとしたら、お許しいただきたい。
鈴木総理(山崎努)は、裸眼で文書を読んでいる。あの歳で、あの年齢の役で、老眼鏡を使わなかったとは信じられないが、人の話を聞くときに右耳に手をかざしていたことと比べると、老化と云うのは、人によって様々だな、と思わずわが身と照らしてみてしまう。それにしても、総理の、ふてぶてしい面構えとあのでかい態度は、やくざの親分のようで、内閣会議は、家来の集会のように見えた。(現代にも受け継がれている? そうだよ、そういう世界なのだよ、という声も、あるかもしれないな)

天皇の(度の無い伊達(だて)に見えた)金縁メガネが、光を反射して真っ白に映ったり、阿南陸軍大臣(役所広司)が、誰だったか忘れてしまったが、懐かしい人物と再会した時、その人物の頭影が、阿南の顔半分にかかったり、普通なら避けて通りたくなる描写を、おおいに取り入れたことに絶賛の拍手を送る。

若人の多くを戦死させ、原爆・空爆攻撃で日本を焦土化・敗戦国にしてしまった重責を阿南は、自決して己(おのれ)と国民とに深く詫びた。
こういう時代と、その日本を今日まで復興に導いた政治と人間たちが存在したことを忘れたくない、いや、忘れてはならない。今の我々は、その多くの犠牲と昭和天皇英断との礎の上に立っている。

いくつかのシーンテロップと出演者名エンドロールとに、英字が添えられていた。外国での上映成果が上がることを、心から願っている。