馬井太郎

墨東綺譚の馬井太郎のレビュー・感想・評価

墨東綺譚(1992年製作の映画)
3.8
わたしが通った学校の国語教師は、永井荷風のことを、何故か、あまり良くは語ってくれなかった。独身を通し玉の井通い、そんな経験やらを小説にして、1952年の文化勲章を授かったことに納得できなかったのか、と今にして思うけれど、そんな時代にタイムスリップしてみたいものではある。
素人っぽいお雪(墨田ユキ)、本を読んでいるような調子のセリフが、かえって色艶を感じさせるから不思議なものだ。源氏名の通り、雪のように真っ白な肌・裸身は、本当に素晴らしい。永井荷風(津川雅彦)、とぼけ顔ながら、別なところで楽しんでいることに、嫉妬する。お雪を畳の上に寝転ばして、いざ写真撮影。
荷風の趣味はカメラだったのか、「ローライ・フレックス」(ドイツ製二眼レフカメラ)、ヨーロッパの土産だったのか、懐かしい。わたしも、父親が持っていたので、使ったことがある。上のレンズで被写体を覗き、下のレンズを通してフィルムに写す。全て手動、シャッター速度も、たしか、1/500秒までだったろうか。(記憶違いかもしれない)6×6のロールフィルム、たしか12枚撮りだったと思う。映画のなかでは、はて? 明るさが足りないのでは、と少し、心配になった。
監督・新藤兼人だから? 乙羽信子が、貫禄・いい味だ。お雪の穴をしっかり埋めている。

永井荷風 1959年4月30日、満79歳。胃潰瘍吐血による窒息死と伝わる。