馬井太郎

セッションの馬井太郎のレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
4.2
ジャズ・ミュージックは、即興演奏が命の音楽、気分のおもむくまま、極端には何をやってもいい、とまで云われる。
もうずいぶん前になるが、ピアノソロを聴きに行ったことがある。演奏がクライマックスになって、徐々に高音鍵盤に移動していくと、やがて88鍵を通り越して木製枠を叩き、さらに、楽器の中にまで突っ込んで、ピアノ線をはじき始めた。曲にはなっていなくとも、観客は大悦び、大歓声と拍手の嵐(言いすぎかな?)に驚かされたことがある。
またあるとき、自分のアドリブ演奏をやり終えると、さっさと袖に引っ込んで姿を消し、テーマに移るころになって、のこのこ戻ってくる、というジャズマンも眼にしたことがある。
何が起こるかわからない・・・ジャズ・ミュージックの楽しみのひとつである。

ドラマー:アンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)は、ひとりでドラムの練習をしているとき、ふと通りかかった音楽学校のバンドマスター:テレンス・フレッシャー(J・K・シモンズ)の眼にふれる。映画の生命、「運命の出会い」である。
あるとき、アンドリューと再び顔をあわせたスキンヘッド:テレンスは、自分が指導する楽団の練習を見に来いと、優しい態度で声をかける。
希望に胸をふくらませ、その練習に参加したアンドリューを待ちうけていたものは・・・。
右手に砂糖菓子、左手に鞭(ムチ)を携えて、多くの指導者・コーチたちは、それをうまく、効果的に使い分ける。だが、この鬼軍曹のようなバンマス(バンドマスター)は、どうだろうか? 
演奏者にとって、楽器は命の次に大切なもの。それを、演奏が気に食わないから、己の意図することを表現できていないから、と云って腹をたて、楽器を奪い取って、放り投げるという狂気は、理解に苦しむ人も多いだろう。これが、真の芸術家というものなのか?
楽器を壊された侮辱に耐えられなくて、殴りかかったアンドリューの気持ちがよくわかる。
さらに、ラスト、運命をかけた演奏を前にして、鬼軍曹は、さらなる、意味不明のプレッシャーをアンドリューに投げかける。それを耳にしたアンドリュー、顔色が急に暗くなった、戸惑うその表情が、素晴らしい。心の迷いと乱れは、ドラムのリズムに如実に表れる。

演奏を終えたラスト、見つめ合うふたりのアップ・・・そして・・・ブラックアウト。

アンドリュー役のマイルズは、1日2~3時間、ドラムの特訓を約2か月間、したという。本当に血が出たそうだ。なんと、本作が映画デビュー。
アンドリューのガールフレンド・ニコル役:メリッサ・ブノワ・・・たったひとりの若き女優というだけが、わたしの印象に強く刻まれた理由ではない、次の作品が出たら、マイルズと同じく、観逃したくない俳優のひとりとなった。